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【第113回】間室道子の本棚 『来世の記憶』藤野可織/KADOKAWA

「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
 
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『来世の記憶』
藤野可織/KADOKAWA
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読んだ後しばらく離れない本ってある。「私と距離が近い」と思える作品。登場人物に激しく共感したとか、ストーリーを何度も反芻するとか、人々のその後を想像とかとは異なり、「これはどういうお話なのか」と存在そのものを考え続けるような作品。本書がそうだった。

帯に「でもそんなの、女の子なら誰だって経験してる」(「植物装」にでてくる一文だ)とあるとおり、本書には女性の息苦しさを描いた二十のお話が収録されている。

「れいぞうこ」には、冷蔵庫で眠る小学生女子が登場する。理由は鮮度を保つため。死ぬのが怖いのではない。フレッシュでなくなるのを、彼女は恐れる。クラスの女子は全員そうしており(男子については触れられてないのが興味深い)、高身長で冷蔵庫に入れないと申告したさきちゃんは皆から敬遠されている。大人である/大人と同じになったお母さんやさきちゃんを、主人公は気の毒に思っている。彼女の夢は・・・。

ショッキングなのは「怪獣を虐待する」だ。女の子たちが武装し、森の奥に無抵抗で繋がれている生きものを虐待に行く。母親はたしなめるが、彼女たちも同じことをしてるのを娘たちは知っている。

はじめのうち、私は怪獣は「おじさん」だと思っていた。若い女を、若かった女を、虐げ、むさぼり、利用し、いばっていた奴に鉄槌を!

怪獣をいじめていいのはかつては男たちだけだった、とあったのも私の「おじさん説」を裏付けた。たいていの暴力沙汰はおじさん同士でやるからだ。

しかし性質や性格がわかるにつれ、どうもちがう、と思えてきた。怪獣はすぐ回復し、痛めつけたのをなかったことにしてくれる。耐えることについては心身ともに強靭だ。怯え、震え、か細い悲鳴をあげる生きものを見て、人間たちは「こっちを誘ってるんだな」と解釈する。そして憎いなんてとんでもない、私たちはあれが大好きだ、と思っている。怪獣とは何か、何度も考えさせられた。

圧巻は書下ろしの「いつかたったひとつの最高のかばんで」。非正規雇用の女性・長沼さんが行方不明になり、会社に警察がやってくる。大きなこの社の従業員はほとんどが長沼さんと同じで「フロアにひしめく非正規雇用の女たち」と聞いて浮かぶイメージってあると思う。

それがひっくり返り、一人一人にどんどん色やかたちがつき、ほかの誰でもないその人の人生が見えてくる場面は圧巻。まるで女性たちが「自分にぴったりのかばん」そのものになったよう。

ふつう感動したら、私の人生をはげますためにこの本はある、と思う。でも本書は、出て来る人たちに「私がいるよ」とささやいてあげたくなる。あなたたちの存在を知り、長く胸に残すために私がいる、と。これが冒頭に書いた「本との近さ」の源だ。

フェミニズム文学とも一線を画すと思う。「自分をどうにでもできる力を持った人の顔色をうかがいながら生きる」「長いこと変わらない法律や世間のイメージに従わされる」「弱者はひどい目にあっても強者を許さねばならない。でないと"やさしくない!"と二度目の攻撃が始まる」―こんなの、誰だって経験してる、と言いたいのは女たちばかりではないだろう。

移民であること、肌の色、セクシャルマイノリティのために、威圧を受け、暴力の危険にさらされ、権利が認められないまま生きていかねばならない人たちがどれだけいるか。『来世の未来』は間違いなく「世界文学」である。多くの人に読んでもらいたいと思う。
 
 
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代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室  道 子
 
【プロフィール】
雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『婦人画報』、『Precious』、朝日新聞デジタル「ほんやのほん」などに連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『タイニーストーリーズ』(山田詠美/文春文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫)などがある。
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