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【第189回】間室道子の本棚 『レジェンドアニメ!』辻村深月/マガジンハウス

「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
 
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『レジェンドアニメ!』
辻村深月/マガジンハウス
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答えのわからない、「なぞなぞ」めいたものを考えるのがすきだ。たとえば大昔、NHKのラジオドラマの効果音の指示に「音もなく降る雪の音」とあったらしい。どうやったかの記録は残っておらず、正解はわからないのだけど、ときどき思い出して、頭の中で遊んでみる。

本格ミステリーをはじめ、SF的展開のある作品、怪談、青春小説、社会派もの、ホラー長編まで幅広いテイストで書き続ける辻村深月さんだが、私は「お仕事小説」の名人でもあると思っている。

さまざまな職種が合体して建物に命を与える『東京會舘とわたし』をはじめ、『本日は大安なり』ではウェディングプランナー、『島はぼくらと』では地域活性デザイナー、『傲慢と善良』では結婚相談所の女性など、主人公か否か、温厚か狡猾かにかかわらず、とにかくいろんな職業が彼女の作品に登場する。で、お仕事小説の意義は「世の中にはこういう人がいて社会を支えていると知らしめる」であるが、辻村さんの興味はそれ以上のところにあるのではないか。それは「プロ意識」だ。

もちろん専門家のスキルが問題を解決する。でも主人公たちをハッとさせ、考え方や生き方を変えさせるのは、彼らの心意気だ。その最たるものが、アニメ業界を描いた既刊の『ハケンアニメ!』そしてスピンオフ作品集であるこの『レジェンドアニメ!』。本作ではとりわけ、「プロとは何か」に迫っていると思った。

たとえば二話目に、大手アニメ制作会社の演出部二年目、二十一歳の王子千晴が登場する。天才肌でイケメン、と早くも評判がとどろく彼は、このたび初めてまるまる一話を任されることになった。少年たちがロボットを操縦し、侵略者たちと戦う人気アニメの四十四話目。物語のクライマックスの終盤で、内容的にも長寿アニメの仲間入りが見えてきた時期的にも大事な回だ。

性格的には生意気で厄介、と噂のある王子は、「普通」を嫌い、「ひとりですべてができる」を好み、明確に撮りたいものが見えている新人だった。だから音響部のベテラン五條が、総監督とプロデューサーは立ち会わないの、と聞いた時「ええ」と答えるのだがそこに「何か問題でも?」と言いたげなとげとげしい目や敵愾心むき出しの空気が付いてしまう。

演出プランはすごく斬新、でも「放送事故と間違われるのでは」というすれすれだった。声優さんたちとの音声収録は王子の思い通りに行われ、念のためにバックアップ的なものを録らせてくれないか、という五條の提案は「無駄。どうせ使わない」と一蹴された。

しかしオンエア二日前、四十四話にピンチが降りかかる。アニメの歴史や潮流について専門外のオトナたち、という声もありましょうが、でもとにかくスポンサーとテレビ局が「これでは駄目」と判断したら流せない。「子どもたちには伝わる自信がある」だけが武器の王子は、演出の才能はあってもアニメ業界のプロとは言えない。だって「毎週放映する」という基本を危機に陥らせている!

そこで五條の出番となる。彼のアイデアが、王子の目と耳を開かせる。プロとは何か。どういうことができるか。

読みながら話しかけたくなった。五條さん、あなたなら、音もなく降る雪の音、どうしますか?

好評であれば放送期間が延長され、DVD化、劇場版、フィギュア化、企業や地方とのタイアップ、イベント開催、続編、新シリーズ、スピンオフの制作。際限も限界もないアニメの世界を描いた壮大な、でも個人がきらりと光る作品。「何となく」で入った人を熱狂にまでもっていき、ストイックであることと楽しむことの両立が伝わってきて、向こう側にいつもファンが見えている――最終的にせりあがるのは、作家・辻村深月さんのプロ意識だ。
 
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代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室  道 子
 
【プロフィール】
雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『婦人画報』、電子雑誌「旅色 TABIIRO」、朝日新聞デジタル「ほんやのほん」などに連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『タイニーストーリーズ』(山田詠美/文春文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫)などがある。
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