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【第199回】間室道子の本棚 『船玉さま 怪談を書く怪談』加門七海/角川ホラー文庫

「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
 
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『船玉さま 怪談を書く怪談』
加門七海/角川ホラー文庫
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半年ほど前の文庫だけど、夏のシーズンに紹介しよう。

怪談作家の中で、加門七海さんの魅力は群を抜いていると思う。彼女の作品には品がある。「気高く優雅」「高貴」というより、ここのところエンタメ、サブカルの世界でよく使われる「品」とは、「自分で決めた一線」である。

本書は実話集だが、体験ものにしろ創作にしろ、こわい話はエスカレートさせようと思えばいくらでもできる。ギイイイイイイというドアの音を「うめき声めいた」としたり、梅雨寒の冷気を「霊気」にしたり。でも加門さんはそういう方向ではない。「日常にこんな異変が!信じられないでしょ!?」ではなく、彼女の周囲では異界と現実の境目があらかじめ薄い。へたすると読み飛ばしそうなくらい、異様なことがフラットに書かれている。だからこそ、ゾッとする。

たとえば表題作「船玉さま」の中の一文。「山は好きだし楽しいしたまに登りたくなるけど、海は嫌い、苦手。というより怖い」と綴ったあと、山での「遭遇」について、 「別のところで記した、月山での「出られない下山路」には参ったが、そのほかは、夕暮れの藪の四方から女の歌声が迫ってきて、走って逃げた程度しかない」。

「夕暮れの」以降・・・いや、これ、やばいでしょ。他の作家なら「一編いける!」となるところだが、加門さんは33文字に納め、しかも「程度」って!

野球にどハマリしてる人が「自然と情報が集まり、仲間が出来て、レアグッズに遭遇したり駄目だと思ってた場所に行けたりなんですよ」と語るのを「怪奇!異常!」と誰も思わないように、熱心な人のところには自然とソレが集まってくるもの。というわけでオカルト好きの加門さんはいろいろと「遭いやすい」のだが、盛らず、押さえつけず、肌感覚で、文字化をさぐってる感じ。作家の経験とか読者を考えてではなく、怪異と直接、「この先、書いていいかな?まずいか。いける?いけますね」と押し引きしているような読み味がいい。だから彼女には品があるのだ。

本書でわたしがいちばん面白かったのは、数ある加門作品の中でも異色の笑えるお話「聖者たち(二)」。

先ほど怪奇現象に遭いやすい人、と書いたが、彼女は「やたらと物をもらう人」でもあるそうだ。買い物でおまけをもらうのは当たり前。とおりすがりのおばさん、トラック運転手、山伏(!)、ヤクザ(!?)まで、いろんなものをどんどんくれる。さてお話の結末は?

自分の人生には欠落が多いと思ってる方、「でもこっちは過剰なのよね」がきっとあり、笑えてくることもあるはず。闇の話が生きてる世界を広げてくれる一冊。
 
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代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室  道 子
 
【プロフィール】
雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『婦人画報』、朝日新聞デジタル「ほんやのほん」などに連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『蒼ざめた馬』(アガサ・クリスティー/ハヤカワクリスティー文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫)などがある。
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