【第210回】間室道子の本棚 『#真相をお話しします』結城真一郎/新潮社
「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
* * * * * * * *
『#真相をお話しします』
結城真一郎/新潮社
※画像をクリックすると購入ページへ遷移します。
※画像をクリックすると購入ページへ遷移します。
* * * * * * * *
五つのお話が入った短編集。
結城真一郎さんといえば、「人の記憶を取引する店」、「極秘の人体実験」、「狂気のテロリスト」といった大ネタを書いてきた方だが、今回の『#真相をお話しします』はいわばご近所小説。
家庭教師が来ている、パパ活をしてる、パソコン画面を見ながら友人と飲み会開催、不妊治療中、You Tubeを見てるなど、現在自分のとなりの家はこうかも、という令和の日常が描かれつつ、あっと驚く結末に連れていかれるのが読みどころ。
面白いなあ、と思ったのは、今の空気感が書けていることだ。おススメは2021年の日本推理作家協会賞の短編部門を受賞した「#拡散希望」。
都市部から小さな島に越してきた三家族の一人っ子たちと、地元の女の子。皆同じ歳で、四人は成長するにつれ仲良しグループになる。
都会から来た三人にはそれぞれ信じられないようなキラキラネームが付けられていた。また、語り手である男の子の両親は意識高い系。移住は「せわしない生活にちょっぴり疲れた。子育ては絶対田舎で」と決めていたのだという。まあ今の世の中、パソコンさえあればどこに住んでいても仕事ができる職種はけっこうある。
そして彼の家は教育熱心だった。テレビは一日三十分、子供にスマホは持たせない、ゲーム一切禁止。で、こういう親もいるよね、というありふれたひとつひとつが意味を持ち、焦点を結ぶとき・・・物語の異様な真相があらわになる。
そして、とっても異常だけどこれはどこかですでに起きてる、と思っている自分がいた。このとおりでなくても似たようなことはきっともうある。今日までなくても、明日起きるかもしれない。
リモート飲み会やYou Tubeがでてくるから今っぽいのではない。描かれた物語を生み出す時代の気分。これを書ける作家は、実はあまりいない。
さらに「個人情報が!!」と叫びつつ皆SNSはやめないし、以前とはくらべものにならないほどの出会いがあるけど相手については彼、彼女の自己申告を信じてつきあうしかない。こんな現代社会の不安や矛盾も著者は突いてくる。
あと、印象的なのは表紙画。コロナ禍でわれわれはマスクをして目だけ出してるけど、この子は目だけ隠している。すべてを読み終わったあと、表紙カバーをそっと外してみてほしい。そこにある表情は、明日のニュースの加害者のもの?それとも被害者?
「これが起きた」だけでなく「これが起きそう」という気配に満ちた本書。おすすめです。
結城真一郎さんといえば、「人の記憶を取引する店」、「極秘の人体実験」、「狂気のテロリスト」といった大ネタを書いてきた方だが、今回の『#真相をお話しします』はいわばご近所小説。
家庭教師が来ている、パパ活をしてる、パソコン画面を見ながら友人と飲み会開催、不妊治療中、You Tubeを見てるなど、現在自分のとなりの家はこうかも、という令和の日常が描かれつつ、あっと驚く結末に連れていかれるのが読みどころ。
面白いなあ、と思ったのは、今の空気感が書けていることだ。おススメは2021年の日本推理作家協会賞の短編部門を受賞した「#拡散希望」。
都市部から小さな島に越してきた三家族の一人っ子たちと、地元の女の子。皆同じ歳で、四人は成長するにつれ仲良しグループになる。
都会から来た三人にはそれぞれ信じられないようなキラキラネームが付けられていた。また、語り手である男の子の両親は意識高い系。移住は「せわしない生活にちょっぴり疲れた。子育ては絶対田舎で」と決めていたのだという。まあ今の世の中、パソコンさえあればどこに住んでいても仕事ができる職種はけっこうある。
そして彼の家は教育熱心だった。テレビは一日三十分、子供にスマホは持たせない、ゲーム一切禁止。で、こういう親もいるよね、というありふれたひとつひとつが意味を持ち、焦点を結ぶとき・・・物語の異様な真相があらわになる。
そして、とっても異常だけどこれはどこかですでに起きてる、と思っている自分がいた。このとおりでなくても似たようなことはきっともうある。今日までなくても、明日起きるかもしれない。
リモート飲み会やYou Tubeがでてくるから今っぽいのではない。描かれた物語を生み出す時代の気分。これを書ける作家は、実はあまりいない。
さらに「個人情報が!!」と叫びつつ皆SNSはやめないし、以前とはくらべものにならないほどの出会いがあるけど相手については彼、彼女の自己申告を信じてつきあうしかない。こんな現代社会の不安や矛盾も著者は突いてくる。
あと、印象的なのは表紙画。コロナ禍でわれわれはマスクをして目だけ出してるけど、この子は目だけ隠している。すべてを読み終わったあと、表紙カバーをそっと外してみてほしい。そこにある表情は、明日のニュースの加害者のもの?それとも被害者?
「これが起きた」だけでなく「これが起きそう」という気配に満ちた本書。おすすめです。
代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室 道 子
【プロフィール】
雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『婦人画報』、朝日新聞デジタル「ほんやのほん」などに連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『蒼ざめた馬』(アガサ・クリスティー/ハヤカワクリスティー文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫)などがある。