【第347回】間室道子の本棚 『最後の一色』和田竜/小学館
「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
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『最後の一色 上・下』
和田竜/小学館
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これから二週にわたり、和田竜さんの『最後の一色』をほめたたえようと思う。
歴史時代小説は読まないんだよね、という方、それが理由で本書を避けるのはもったいない。たとえばハリウッド映画好きなかた、ミステリーだとどんでん返しものがいいなあという人、痛快と爽快を求めている、男と男の激突、男女の心の奥深さetc.エンタメのすべてがここにつまっている。
令和をいかに読み解くか、どう生きるか、のヒントもある。たとえば出てくるのはほんの二ページだが足利義教(よしのり)という人物について。
この人は戦国時代の少し前、念願の将軍になった。でも最高権力者の地位でもそう好き勝手はできないことがわかった。それでどうしたかというと、「自分が法律」みたいな恐怖政治を敷いちゃったんである。トランプ大統領みたいな人が乱世直前の日本にいた!
で、足利義教がどうなったかは歴史が教えてくれる。
さらに、集団の中で認められる人って、腕力、権力、利口、お金持ち――ではないの。そういうのもだいじかもしれぬがそんなやつはざらにいる。戦国の世で皆に一目置かれるには・・・・読んでのお楽しみ!
さらに、お城の中にいる敵兵の人数を把握するにはどうしたらいいかとか、下手に出る大将に従うものはいないとか、うなるシーンが続出。
今、歴史時代小説を書くことじたいにも拍手したい。なにせセクハラパワハラあたりまえな日本の中世。コンプラになじんだ読者には「こんなのユルせない!」があるだろう。で、和田竜さんが顔を出す。
主人公の一人である一色五郎のお父さんが十年におよぶ信長との戦いに敗れ、「やっぱ無理だったか」てかんじでさばさば自害する場面。憤怒やウラミ噴出でない態度はあっぱれ。しかしここで、「付き合う家臣らはいい迷惑」という地の文がでてくるのだ。
「誰の声」でもないけど、「誰かの声」だ。この戦のあまたの死者の声であり、作者・和田さんの胸の内であり、読者が思いそうなことでもある。
また、武田征伐の様子。最後の砦が信長の家臣軍に包囲され、もうだめだ、という時、男たちは夫人や子らを次々引き寄せ自分の手で殺害。生きて敵方の手に渡ればどんな屈辱、くるしみが、という配慮?なさけ?のつもりかもしれぬが女子供のみなさんはたまったもんじゃありません。
で、和田さんはまず「凄惨極まりない」と書き、そのあと「武田方は勇敢に戦った」と添える。「時代的にこのテの道連れは常識なのよ」でスルーせず、眉をひそめ胸を痛ませ書いてることが伝わり、そのあと武士への敬意もにじませている。
さらに、女性について。戦国ものは、男の集団VS.男の集団=暴力VS.暴力=むさくるしさVS.むさくるしさ、になりがちだが、そこへぽっと投げ込まれるのが女たちである。このことじたい、コンプラ世代はきーっとなるかもしれぬが、乱世で女性は切り札であった。というわけで数々の作品でハートのエース、またはスペードのクイーン的に登場。
で、史実としてこれを命じた信長がえらいのか、それをふまえてこんな登場を考えた和田竜さんがすごいのかわからぬが、本作では若い娘がジョーカーみたいに投入される。展開に舌を巻きましたねー。
次回は「映像化」について述べたいと思います。乞うご期待。
歴史時代小説は読まないんだよね、という方、それが理由で本書を避けるのはもったいない。たとえばハリウッド映画好きなかた、ミステリーだとどんでん返しものがいいなあという人、痛快と爽快を求めている、男と男の激突、男女の心の奥深さetc.エンタメのすべてがここにつまっている。
令和をいかに読み解くか、どう生きるか、のヒントもある。たとえば出てくるのはほんの二ページだが足利義教(よしのり)という人物について。
この人は戦国時代の少し前、念願の将軍になった。でも最高権力者の地位でもそう好き勝手はできないことがわかった。それでどうしたかというと、「自分が法律」みたいな恐怖政治を敷いちゃったんである。トランプ大統領みたいな人が乱世直前の日本にいた!
で、足利義教がどうなったかは歴史が教えてくれる。
さらに、集団の中で認められる人って、腕力、権力、利口、お金持ち――ではないの。そういうのもだいじかもしれぬがそんなやつはざらにいる。戦国の世で皆に一目置かれるには・・・・読んでのお楽しみ!
さらに、お城の中にいる敵兵の人数を把握するにはどうしたらいいかとか、下手に出る大将に従うものはいないとか、うなるシーンが続出。
今、歴史時代小説を書くことじたいにも拍手したい。なにせセクハラパワハラあたりまえな日本の中世。コンプラになじんだ読者には「こんなのユルせない!」があるだろう。で、和田竜さんが顔を出す。
主人公の一人である一色五郎のお父さんが十年におよぶ信長との戦いに敗れ、「やっぱ無理だったか」てかんじでさばさば自害する場面。憤怒やウラミ噴出でない態度はあっぱれ。しかしここで、「付き合う家臣らはいい迷惑」という地の文がでてくるのだ。
「誰の声」でもないけど、「誰かの声」だ。この戦のあまたの死者の声であり、作者・和田さんの胸の内であり、読者が思いそうなことでもある。
また、武田征伐の様子。最後の砦が信長の家臣軍に包囲され、もうだめだ、という時、男たちは夫人や子らを次々引き寄せ自分の手で殺害。生きて敵方の手に渡ればどんな屈辱、くるしみが、という配慮?なさけ?のつもりかもしれぬが女子供のみなさんはたまったもんじゃありません。
で、和田さんはまず「凄惨極まりない」と書き、そのあと「武田方は勇敢に戦った」と添える。「時代的にこのテの道連れは常識なのよ」でスルーせず、眉をひそめ胸を痛ませ書いてることが伝わり、そのあと武士への敬意もにじませている。
さらに、女性について。戦国ものは、男の集団VS.男の集団=暴力VS.暴力=むさくるしさVS.むさくるしさ、になりがちだが、そこへぽっと投げ込まれるのが女たちである。このことじたい、コンプラ世代はきーっとなるかもしれぬが、乱世で女性は切り札であった。というわけで数々の作品でハートのエース、またはスペードのクイーン的に登場。
で、史実としてこれを命じた信長がえらいのか、それをふまえてこんな登場を考えた和田竜さんがすごいのかわからぬが、本作では若い娘がジョーカーみたいに投入される。展開に舌を巻きましたねー。
次回は「映像化」について述べたいと思います。乞うご期待。

代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室 道 子
【プロフィール】
ラジオ、TVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『Precious』に連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『蒼ざめた馬』(アガサ・クリスティー/ハヤカワクリスティー文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫) 、『プルースト効果の実験と結果』(佐々木愛/文春文庫)などがある。

