【第350回】間室道子の本棚 『恋のすべて』くどうれいん 染野太朗/扶桑社

「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
 
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『恋のすべて』
くどうれいん 染野太朗/扶桑社
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「大きく出たな」そして「無理~」と思った。本書のタイトルに対してである。だって古今東西、いままでどんだけの書物人たちが恋心を描こうとしてきたか!

本だけじゃない。絵画、彫刻、映画、音楽。漫画、アニメ、テレビ番組、なんだったら建築とか料理に相手への気持ちをこめたものもあるだろう。彼らは果てしない想いをなんとか百号カンバスとか三分間のポップミュージック、ワンクールのドラマ、煮物におさめようとしてきた。

本書は厚さ1㎝の歌集である。これで「すべて」とはよくも言ったものよのう。

で、読みながら気づいたの。短歌という枠にきりとった、おしこめたのではなく、三十一文字になってますます、恋は膨張し、とどまるところをしらない大きさになっていくよう。

これぞわれわれの真髄。幕の内弁当、盆栽、曜変天目の茶碗、そして短歌。わが国には小さく納められたからこそ彼方にまで広がる趣きを放つ文化が多いのである!

閑話休題、構成にも工夫があり、Ⅱはどちらが詠んだのかがはっきりしているが、Ⅰはテーマで章立てられており詠み人の名前はページの左隅に小さくあるだけ。

「どっちの作品?」の確認や追い求めにあまり意味がない。カフェオレをのみながらこのへんは珈琲かしら、ここはミルクかしら、と考える人はいないだろう。

もちろん誰でもいいから歌人をふたりえらびテーマを決めて詠んでもらって名前を最小でクレジットしたらこういう空気になるのか、というとそうではない。

おのおののプロフィールは巻末にある。でもふたりの「関係性」はわからない。そういうつくりなのだからそれで充分、なのだが、ネットで調べたところによると(ほんとうによくない現代人の習慣だ!)、本書はくどうさんが染野さんの歌集『初恋』を読んで衝撃をうけ、雑誌編集部に「染野さんと連載がしたい」と企画を持ち込んだのがはじまりだそうだ。

恋心がテーマだから、というより「この人となら、自分の歌がとけあえる」という確信めいたもの――それが「恋」なんだろう。わたしの見立てでは二人は恋愛関係にないが(ワイドショー的ヤジウマですみません)、おくりあった短歌は恋しあっている。

おすすめの二首は、
「玄関でキスをしてまた抱きしめてそのあとはただ一人の聖夜」(染野太朗「Christmas」)

「この恋は海に行きたくない恋だ もういい、深いのもとおいのも」(くどうれいん「Sea」)

たしかにここにすべてが、と不思議にナットク。短歌を読みなれていない人にもおすすめ.。
 
 
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代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室  道 子
 
【プロフィール】
ラジオ、TVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『Precious』に連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『蒼ざめた馬』(アガサ・クリスティー/ハヤカワクリスティー文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫) 、『プルースト効果の実験と結果』(佐々木愛/文春文庫)などがある。

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