【第351回】間室道子の本棚 『僕には鳥の言葉がわかる』鈴木俊貴/小学館
「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
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『僕には鳥の言葉がわかる』
鈴木俊貴/小学館
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尊敬しているテレビ番組、というのがある。”毎回熱心に視聴”ではないんだけど、とにかく「これに出れた人はすごい」と思っているもの。『徹子の部屋』と『情熱大陸』である。で、2025年後半、たてつづけに両者に出た人がいる。動物言語学者の鈴木俊貴さん。二つに目をつけられていたとはどんな人?!と興味がわき、『僕には鳥の言葉がわかる』を手にとった。
ページをめくり、小さな飛ぶものたちの能力、その発見に目をみはりつつ、ウラの読みどころは、鳥のことを語れば語るほど見えてくる鈴木さんおよび周囲の斬新な人間性・人間力だと思った。
学生時代の冬、彼は研究の第一対象であるシジュウカラをはじめ、カラ類(コガラ、ヤマガラ、ゴジュウカラなど)の観察のため、雪深い軽井沢で山籠もりをしていた。それで、残り一か月というところでコメ以外の食料がなくなる。
生き物調査の成功は、サンプル集めにかかっている。時間がもったいないので往復2時間以上かかる買い出しには行きたくない。残りひと月、白米のみで、と決意したあと、鈴木さんは「冬場は鳥たちも種子、種ばかり食べているので同じことだ」と考える。
ものすごく真面目に言ってるのがわかるからこそ私は爆笑した。なんだこの、へんてこな人間的魅力は!
鈴木さんばかりではない。時がたち、番組制作のために一緒に山に入ったNHKのカメラマンが、シジュウカラを追うのに苦労していた。大きさはスズメぐらいだし、枝から枝へとちょこまか飛び回るのでなかなか合わせられないのだ。でもやがてバッチリ慣れた。なぜなら、この人は元プロ野球中継の担当で、動きを追うコツが白球と一緒だったからだ。すごいぞ、カメラマンさん!
「似る」ということも、興味深かった。「飼い主は犬に似る/犬は飼い主に似る」という言葉があるが、鈴木さんは「シジュウカラに似てきましたね」と言われるようになる。で、周囲を見れば、ある動物の研究をしているスギタさんはその生態になっていた。日本生態学会の廊下でだいぶ特徴的な虫に似た男性をみかけ、もしや、と確認するとやはりそれの研究者だった、という話もでてくる。”できすぎ!”と思ったのだが、スズメ研究者のミカミさんは「あるものが好き」らしい。事実は事実のまま奇なり?!
フィンランドの番組から連絡があり協力した検証にもうなった。もちろん鈴木さんはあちらの言葉がわからないしむこうは日本語ができない。でも、日本のシジュウカラの声を北欧の森で流したら・・・。ひとりの研究が誰かに届けば、「じゃあこんなことをやってみたら」が生まれる。これぞ学問の目標、真髄。ビバ、フィンランドのテレビ局の人!
最後に、『情熱大陸』のラストで鈴木さんがぽつりと漏らした一言を紹介しよう。「シジュウカラは、命を守るために言葉を使ってるんですよね」
著書にはXを駆使して成し遂げたこともでてくる。でも、だからこそ、鈴木さんは番組の終わりぎわ、SNSに溢れかえる言葉について懸念を投げかけていた。この時の立ち位置は完全に鳥側だったと思う。澄んだまなざしが、人間たちの濁流を見ている。
「集まれ」「警戒しろ」「ヘビだ」「タカがいる」――みんなで生きるためのシジュウカラの言葉が沁み入る。読後、「なんて言ってるんだろう?」と窓の外の木々へ耳をすましたくなる一冊。
ページをめくり、小さな飛ぶものたちの能力、その発見に目をみはりつつ、ウラの読みどころは、鳥のことを語れば語るほど見えてくる鈴木さんおよび周囲の斬新な人間性・人間力だと思った。
学生時代の冬、彼は研究の第一対象であるシジュウカラをはじめ、カラ類(コガラ、ヤマガラ、ゴジュウカラなど)の観察のため、雪深い軽井沢で山籠もりをしていた。それで、残り一か月というところでコメ以外の食料がなくなる。
生き物調査の成功は、サンプル集めにかかっている。時間がもったいないので往復2時間以上かかる買い出しには行きたくない。残りひと月、白米のみで、と決意したあと、鈴木さんは「冬場は鳥たちも種子、種ばかり食べているので同じことだ」と考える。
ものすごく真面目に言ってるのがわかるからこそ私は爆笑した。なんだこの、へんてこな人間的魅力は!
鈴木さんばかりではない。時がたち、番組制作のために一緒に山に入ったNHKのカメラマンが、シジュウカラを追うのに苦労していた。大きさはスズメぐらいだし、枝から枝へとちょこまか飛び回るのでなかなか合わせられないのだ。でもやがてバッチリ慣れた。なぜなら、この人は元プロ野球中継の担当で、動きを追うコツが白球と一緒だったからだ。すごいぞ、カメラマンさん!
「似る」ということも、興味深かった。「飼い主は犬に似る/犬は飼い主に似る」という言葉があるが、鈴木さんは「シジュウカラに似てきましたね」と言われるようになる。で、周囲を見れば、ある動物の研究をしているスギタさんはその生態になっていた。日本生態学会の廊下でだいぶ特徴的な虫に似た男性をみかけ、もしや、と確認するとやはりそれの研究者だった、という話もでてくる。”できすぎ!”と思ったのだが、スズメ研究者のミカミさんは「あるものが好き」らしい。事実は事実のまま奇なり?!
フィンランドの番組から連絡があり協力した検証にもうなった。もちろん鈴木さんはあちらの言葉がわからないしむこうは日本語ができない。でも、日本のシジュウカラの声を北欧の森で流したら・・・。ひとりの研究が誰かに届けば、「じゃあこんなことをやってみたら」が生まれる。これぞ学問の目標、真髄。ビバ、フィンランドのテレビ局の人!
最後に、『情熱大陸』のラストで鈴木さんがぽつりと漏らした一言を紹介しよう。「シジュウカラは、命を守るために言葉を使ってるんですよね」
著書にはXを駆使して成し遂げたこともでてくる。でも、だからこそ、鈴木さんは番組の終わりぎわ、SNSに溢れかえる言葉について懸念を投げかけていた。この時の立ち位置は完全に鳥側だったと思う。澄んだまなざしが、人間たちの濁流を見ている。
「集まれ」「警戒しろ」「ヘビだ」「タカがいる」――みんなで生きるためのシジュウカラの言葉が沁み入る。読後、「なんて言ってるんだろう?」と窓の外の木々へ耳をすましたくなる一冊。

代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室 道 子
【プロフィール】
ラジオ、TVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『Precious』に連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『蒼ざめた馬』(アガサ・クリスティー/ハヤカワクリスティー文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫) 、『プルースト効果の実験と結果』(佐々木愛/文春文庫)などがある。
