【第355回】間室道子の本棚 『成瀬は都を駆け抜ける』宮島未奈/新潮社
「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
* * * * * * * *
『成瀬は都を駆け抜ける』
宮島未奈/新潮社
※画像をクリックすると購入ページへ遷移します。
※画像をクリックすると購入ページへ遷移します。
* * * * * * * *
シリーズ最終作。『成瀬は天下を取りにいく』(公式通称なるてん)で、十四歳で登場した主人公・成瀬あかりは第二弾『成瀬は信じた道をいく』(なるしん)をはさみ、本書(なるかけ)では大学生活まっさかり。特別な変化がないのがいい。
私の考えでは、彼女は有吉佐和子の『青い壺』にでてくる壺なのである。通常あのような、複数の短編をつらぬいてずっと読者をひっぱり続けてくれる存在を考えついたら、「実は呪いの!」とか「手にした者が幸せに!」とか、書き手は何かやらせたくなるもの。でも青磁の壺はただ置かれる。それと同じで、これで終わりとなれば、作者は主人公に意外なことをさせたり無理矢理試練を与えたりしたくなるはず。でも成瀬は成瀬のまま、ラスト一編まで駆け抜ける。
幼い頃から絵も歌もうまく足も速くて成績優秀に加え、けん玉、漫才(!)、近所のパトロール(!!)など次々新しいことにチャレンジし何ごとにもおおまじめなこの主人公は、本作でもとっても変だ。ブラボー。
全三部作で印象的だった人物は、私の場合は「なるてん」の大貫かえで、「なるしん」の呉間言実、「なるかけ」の坪井さくら。いずれも成瀬とバッチバチ、あるいはバチッくらいになった人たちだ。
恋したり心酔したりの「なるてん」の西浦、「なるしん」小四のみらいちゃんは、成瀬がいなくても人生通常運転していけたと思う。でもかえでと言実とさくらは出会いがなければヤバかった。自分を肯定してくれる人とか似たタイプの人間を誰もが求めがちだけど、なんだこいつ、と思うような存在のほうが、生き方の重要なターニングポイントになってくれる。
面白かったのは、「なるかけ」に再登場の西浦があかりを「太陽みたいだ」と考えたこと。私にとって成瀬は黒子である。
通常スーパーガールがでてくる物語って、周囲は盛り立て役になる。でも成瀬はまんなかにいてみんなを引きつけるけどいつしか影に沈み、登場人物たちは最終的に自分と向き合わざるをえなくなる。彼女をかがやきのカタマリと位置づける西浦だってそう。手紙にあふれていた、成瀬さんは成瀬さんは成瀬さんは、という思いを一方的集中から周辺実地観察に変え、己ときちんと対峙してこその五話目のラスト。黒子と太陽が存在として同一。ますます魅力的な成瀬シリーズである。
さらに私が「なるかけ」で注目したのは母・美貴子だ。
お父さんについては『なるしん』の「成瀬慶彦の憂鬱」にその心配性と早とちりぶりが描かれ、同刊の最終話「探さないでください」にはご両親ともに登場。で、お母さんにフォーカスを当てた一編を期待しており、今回四話目の「そういう子なので」で実現されていてうれしかった。
美貴子にはあかりが小学六年の時、五十代の男性担任に、娘さんは協調性がないだのみんなの中で一人だけ笑ってないだのねちねち言われた過去がある。その時彼女がせいいっぱい返したのがお話のタイトルになった一言だ。あれから数年、美貴子がふたたびこの言葉を放つ瞬間がくる。
「そういう子なので」を読んで、これは「そういう親なので」という話なんじゃないかと思った。成瀬あかりという稀有な娘の母であることを、これからも全力で引き受ける、その覚悟とよろこび。美貴子もまた、わが子をとおして自身を見つめ直すのだ。
人からどう思われるかは眼中にない。考えるのは、自分が人としてどうありたいか。迷いはない。あるのは決断だけ。成瀬あかりの背骨につらぬかれた青春三部作、あっぱれ完結。
私の考えでは、彼女は有吉佐和子の『青い壺』にでてくる壺なのである。通常あのような、複数の短編をつらぬいてずっと読者をひっぱり続けてくれる存在を考えついたら、「実は呪いの!」とか「手にした者が幸せに!」とか、書き手は何かやらせたくなるもの。でも青磁の壺はただ置かれる。それと同じで、これで終わりとなれば、作者は主人公に意外なことをさせたり無理矢理試練を与えたりしたくなるはず。でも成瀬は成瀬のまま、ラスト一編まで駆け抜ける。
幼い頃から絵も歌もうまく足も速くて成績優秀に加え、けん玉、漫才(!)、近所のパトロール(!!)など次々新しいことにチャレンジし何ごとにもおおまじめなこの主人公は、本作でもとっても変だ。ブラボー。
全三部作で印象的だった人物は、私の場合は「なるてん」の大貫かえで、「なるしん」の呉間言実、「なるかけ」の坪井さくら。いずれも成瀬とバッチバチ、あるいはバチッくらいになった人たちだ。
恋したり心酔したりの「なるてん」の西浦、「なるしん」小四のみらいちゃんは、成瀬がいなくても人生通常運転していけたと思う。でもかえでと言実とさくらは出会いがなければヤバかった。自分を肯定してくれる人とか似たタイプの人間を誰もが求めがちだけど、なんだこいつ、と思うような存在のほうが、生き方の重要なターニングポイントになってくれる。
面白かったのは、「なるかけ」に再登場の西浦があかりを「太陽みたいだ」と考えたこと。私にとって成瀬は黒子である。
通常スーパーガールがでてくる物語って、周囲は盛り立て役になる。でも成瀬はまんなかにいてみんなを引きつけるけどいつしか影に沈み、登場人物たちは最終的に自分と向き合わざるをえなくなる。彼女をかがやきのカタマリと位置づける西浦だってそう。手紙にあふれていた、成瀬さんは成瀬さんは成瀬さんは、という思いを一方的集中から周辺実地観察に変え、己ときちんと対峙してこその五話目のラスト。黒子と太陽が存在として同一。ますます魅力的な成瀬シリーズである。
さらに私が「なるかけ」で注目したのは母・美貴子だ。
お父さんについては『なるしん』の「成瀬慶彦の憂鬱」にその心配性と早とちりぶりが描かれ、同刊の最終話「探さないでください」にはご両親ともに登場。で、お母さんにフォーカスを当てた一編を期待しており、今回四話目の「そういう子なので」で実現されていてうれしかった。
美貴子にはあかりが小学六年の時、五十代の男性担任に、娘さんは協調性がないだのみんなの中で一人だけ笑ってないだのねちねち言われた過去がある。その時彼女がせいいっぱい返したのがお話のタイトルになった一言だ。あれから数年、美貴子がふたたびこの言葉を放つ瞬間がくる。
「そういう子なので」を読んで、これは「そういう親なので」という話なんじゃないかと思った。成瀬あかりという稀有な娘の母であることを、これからも全力で引き受ける、その覚悟とよろこび。美貴子もまた、わが子をとおして自身を見つめ直すのだ。
人からどう思われるかは眼中にない。考えるのは、自分が人としてどうありたいか。迷いはない。あるのは決断だけ。成瀬あかりの背骨につらぬかれた青春三部作、あっぱれ完結。

代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室 道 子
【プロフィール】
ラジオ、TVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『Precious』に連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『蒼ざめた馬』(アガサ・クリスティー/ハヤカワクリスティー文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫) 、『プルースト効果の実験と結果』(佐々木愛/文春文庫)などがある。
