【第358回】間室道子の本棚 『新しい花が咲く ぼんぼん彩句』宮部みゆき/新潮文庫

「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
 
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『新しい花が咲く ぼんぼん彩句』
宮部みゆき/新潮文庫
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楽曲を元にとか有名な絵からイメージしてとか韓流ドラマが好きすぎてとか、なにかを鍵に小説を書く試みはいろいろ。物語が物語を生むことだってある。で、意外になかったのが「俳句」。

あとがきによれば、本書の源&そのまま短編のタイトルにもなった俳句は宮部先生がお仲間とやっている同好会で詠まれたもの。いわゆる「ホラー句会」ではないらしく、「プレゼントコートマフラームートンブーツ」といった平和なものもある。でも十二編のうち四つが「墓」「墓石」「丑三つの刻」「野辺送り」という不穏系だし、「ついさっきまで人」などぞわっとするフレーズ入りの句も。先生のお好みがうかがえる。

裏テーマは、「密なものがこわれる時」だと思った。スカスカでグラグラな関係は柱が一本消えてもあんがい建ち続けるし、倒壊しても「まあもともとそんなもん」である。でも密度の濃い間柄はなにかが抜けようとすると、異常なゆがみを見せながら何も起きてないふりで現状維持を保とうとする。

私がもっとも怖かったのは、薄露さんという方の句「鋏利し庭の鶏頭刎ね尽くす」をもとに書かれた一編。夫の実家の人々および夫自身が、近所の娘さんを忘れられないでいる、というお話で、妻、夫の妹、彼の勤務先の女性、義母ほか、さまざまな人が語る「みっちゃん」。最高の恐怖は、みっちゃんのお母さんの語りにある。

昭和のころはファミリーの希薄性が起こしたニュースがよくあったけど、令和の今は家族およびその関係になることを夢見た人の、あまりの濃度がまねいた事件が増えたように思う。家というのはある意味密室。娘さん二人にご両親とか最近義理のお父さんが同居したようだとか、近所の家々の構成はわかる。でも心の結びつき方はわからない。

逆にいうと、「わたしの彼氏は、うちの一家は、どこかおかしいんじゃないか」というのは「外」の目線を持ち込まないと気づけない。そして見つけたとて、密な人の異常性はおいそれと他者に打ち明けられないだろう。そこが各物語のおそろしさ。

さらに、「間違っているのはわたし、家族だ」とわかってなお、関係者に、あるいはまったく無関係な者に、憤りをぶつける展開もある。登場人物たちは、現実の私たちは、誰を、何を、守ろうとしているのだろう?そこで、ある色がうかぶ。

私のイメージでは、本書のタイトルの花の色は赤。外で流れ出るものしろ内に流れてるものにしろ、血と愛は、怖い。
 
 
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代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室  道 子
 
【プロフィール】
ラジオ、TVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『Precious』に連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『蒼ざめた馬』(アガサ・クリスティー/ハヤカワクリスティー文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫) 、『プルースト効果の実験と結果』(佐々木愛/文春文庫)などがある。

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