【第360回】間室道子の本棚 『エデンの裏庭』吉田篤弘/岩波書店

「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
 
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『エデンの裏庭』
吉田篤弘/岩波書店
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これはすごい物語の本だ。一編一編がすばらしいだけではない。

人間がお話をつくることについて、作家自らが、あるいは研究者や評論家たちが、古今東西、あれこれ、さんざん、意見をのべてきた。でもまだこんなに語ることがあったんだー、にびっくり。

ふつう、なにかの思索は答えの提示、言い切りである。「結論として放心」というわけにはいかないのだ。しかし本書は吉田篤弘さんが、「書けば書くほど、読めば読むほど、物語って不思議だなあ」とすなおに、呆然として、心をひらいている。その圧倒されてる感じがわたしたちに伝染。手にとるほどに、書物は奇妙で魅力的、とうれしくなってくる。

何度かこの欄で書いたけど、人気作のビフォー・アフターとかスピンオフとかって書かれがち。でも篤弘さんは、「前日譚や後日譚を書いたらその前と後もあるじゃないか」と考えた。「前日の後日は本日」「トゥモローのイエスタデイはトゥデイ」とストレートにいかない。それが創作。

本書の構成はまず、四つの名作とその周辺をもとにした短編を執筆。で、書いたとたんにそこでは語られなかったことが生まれてる。それをこんどは小説ではなく「報告」としてしるす。こんな試みを経て、最後に「エデンの裏庭」という書き下しを収録。

「エデンの裏庭」に登場するのは二十代後半の女性。ねっしんな図書館利用者だった彼女は中学二年生のとき、ある人が没頭している『二十三時の訪問者』を自分も読みたいと思った。でもなかなか読み終えてくれない。そしてその人物はある日図書館から消えた。書籍は棚に戻されたはず。でもその人がいなくなったら彼女の熱意も消えてしまった。

大人になり、お菓子屋さんをひとりで切り盛りする主人公は読書から遠ざかっている。しかしおかしなできごとがあり、彼女は図書館に戻ってきた。ついにあの本を手にする。しかし、ラストがどっひゃーな事態に。

なぜこんなことに?『二十三時の訪問者』になにが?そもそもこの本はどういう・・・。彼女は「結末」をさがす。

作中に「書くとは、読むとは、何ぞや」という考えが出てくるんだけど、作者や主人公というより、物語自身が物語を、本じたいが本について考え、しるしていってる――そんな深みが魅力的。うなったのは、過去をたどっていったら地図にでくわす、という展開。「時間をさかのぼると場所になる」のだ。これってすごくない?

みんな、現在、過去、未来、と聞くと「時」を思う。でも、これらは「地点」でもある。建物や土地だけの話ではない。誰もやってこなくても、そこにありつづける。そのひとつが、「本」だ。

『エデンの裏庭』って面白い、ブンガクって可能性にみちてる、を超えて、吉田篤弘さんという書き手の底知れなさが伝わる一冊。
 
 
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代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室  道 子
 
【プロフィール】
ラジオ、TVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『Precious』に連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『蒼ざめた馬』(アガサ・クリスティー/ハヤカワクリスティー文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫) 、『プルースト効果の実験と結果』(佐々木愛/文春文庫)などがある。

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