【第365回】間室道子の本棚 『スコッパーの女』山白朝子/KADOKAWA
「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
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『スコッパーの女』
山白朝子/KADOKAWA
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同業種にもっとも会えるのは同業者である。授賞式、パーティ、編集者による紹介、先輩のグループなどで、作家は作家と会いまくる。
山白朝子は驚愕したと思う。彼らのその暗さ、その情熱、その不気味さに。自分もあんなふうになっていくのか、という興奮と恐れ。でも同時に思ったはず。「これは、書ける」と。
いくつかのペンネームで活動してる人なので、だから誕生と欲望は逆かもしれない。作家の暗黒を書こうとする時、「山白朝子」がむくむくと頭をもたげ、立ち上がるかんじ。
この欄の第238回で彼女の『小説家と夜の境界』をとりあげ、「物書きたちの狂気に、紙一重の神聖さが見え隠れする」と評したが本作『スコッパーの女』でそれはナシ。神をも恐れぬ地平までみんなイッちゃってる。残酷な運命や怪異より、文章にまぎれる作家の「地」や「素」が私を凍らせる。
たとえば二話目の「小説講師の憂鬱」の主人公は執筆人生何度目かの深刻なスランプに陥っている。廃業しようと決めた彼は、かつての知り合いのG先生が専門学校の小説コースの講師をしていたことを思い出す。電話してみると先生は、これから自殺をしに富士の樹海まで行こうとしていた、と言う。主人公は思うのだ。
「引き止めるべきか迷ったが、彼が消えるということは、専門学校の講師の職が一人分、空くということだから、ある意味で都合がいいのかもしれない」
これがお話の重大なキーになることはなく、ただ出てきてそれだけなのだ。ゾゾゾ。
同話には作家の卵である女の子もでてくる。彼女はおそろしいことにかかわっているかもしれない中年男と夕食をともにし、デザートになってはじめてその話を持ち出す。せっかくの高級レストランなんだから、とちゃっかり思ったんだろう。ぐぐぐ。
ヒトデナシ!と思う一方、「自分の次の食い扶持の心配をする」「甘い物まで行きつきたい」ってある意味とっても人間臭い。われわれとかけ離れたところからやってくるのではなく、人のどろっとした本能や欲を煮詰めたものが、「怪物」なんだろう。
三話目の「シンクロニシティ」に登場するのは活動が軌道に乗り始めて数年の男性作家だ。彼の特徴はがっつりプロット=設計図を考え、そのとおりに進行させること。名前にもこだわる。登場人物名を考えたら姓名判断のチェックをし、事前に決めた彼・彼女の性格や行く末と乖離するようならそのネーミングは捨てる。そうしてスタートしたら、もういっさいの変更はしない。
そんな彼はある日、自分の連載にでてくる人物と現実との奇妙なシンクロを妻から教えられる。不気味さや気持ち悪さからちょっとしたエピソードの修正はした。でもおおもとは変えなかった。そのあと事件が起きる。
彼は言うのだ。
「私が何をしたというのでしょう。私は小説を書いた。(中略) それだけです」
このあとしっぺ返しがくる。書く書く書く書くにとらわれていた主人公からごっそり抜け落ちていたもの。それは、「読む」。彼のもとに「小説」が届きはじめる。登場人物の名前は・・・。
“斬新なストーリー”なんてもんじゃない、すべてがひどく歪んでいて、みたことのない結末に連れて行かれる。最高のホラー、山白朝子の世界へようこそ。
山白朝子は驚愕したと思う。彼らのその暗さ、その情熱、その不気味さに。自分もあんなふうになっていくのか、という興奮と恐れ。でも同時に思ったはず。「これは、書ける」と。
いくつかのペンネームで活動してる人なので、だから誕生と欲望は逆かもしれない。作家の暗黒を書こうとする時、「山白朝子」がむくむくと頭をもたげ、立ち上がるかんじ。
この欄の第238回で彼女の『小説家と夜の境界』をとりあげ、「物書きたちの狂気に、紙一重の神聖さが見え隠れする」と評したが本作『スコッパーの女』でそれはナシ。神をも恐れぬ地平までみんなイッちゃってる。残酷な運命や怪異より、文章にまぎれる作家の「地」や「素」が私を凍らせる。
たとえば二話目の「小説講師の憂鬱」の主人公は執筆人生何度目かの深刻なスランプに陥っている。廃業しようと決めた彼は、かつての知り合いのG先生が専門学校の小説コースの講師をしていたことを思い出す。電話してみると先生は、これから自殺をしに富士の樹海まで行こうとしていた、と言う。主人公は思うのだ。
「引き止めるべきか迷ったが、彼が消えるということは、専門学校の講師の職が一人分、空くということだから、ある意味で都合がいいのかもしれない」
これがお話の重大なキーになることはなく、ただ出てきてそれだけなのだ。ゾゾゾ。
同話には作家の卵である女の子もでてくる。彼女はおそろしいことにかかわっているかもしれない中年男と夕食をともにし、デザートになってはじめてその話を持ち出す。せっかくの高級レストランなんだから、とちゃっかり思ったんだろう。ぐぐぐ。
ヒトデナシ!と思う一方、「自分の次の食い扶持の心配をする」「甘い物まで行きつきたい」ってある意味とっても人間臭い。われわれとかけ離れたところからやってくるのではなく、人のどろっとした本能や欲を煮詰めたものが、「怪物」なんだろう。
三話目の「シンクロニシティ」に登場するのは活動が軌道に乗り始めて数年の男性作家だ。彼の特徴はがっつりプロット=設計図を考え、そのとおりに進行させること。名前にもこだわる。登場人物名を考えたら姓名判断のチェックをし、事前に決めた彼・彼女の性格や行く末と乖離するようならそのネーミングは捨てる。そうしてスタートしたら、もういっさいの変更はしない。
そんな彼はある日、自分の連載にでてくる人物と現実との奇妙なシンクロを妻から教えられる。不気味さや気持ち悪さからちょっとしたエピソードの修正はした。でもおおもとは変えなかった。そのあと事件が起きる。
彼は言うのだ。
「私が何をしたというのでしょう。私は小説を書いた。(中略) それだけです」
このあとしっぺ返しがくる。書く書く書く書くにとらわれていた主人公からごっそり抜け落ちていたもの。それは、「読む」。彼のもとに「小説」が届きはじめる。登場人物の名前は・・・。
“斬新なストーリー”なんてもんじゃない、すべてがひどく歪んでいて、みたことのない結末に連れて行かれる。最高のホラー、山白朝子の世界へようこそ。

代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室 道 子
【プロフィール】
ラジオ、TVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『Precious』に連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『蒼ざめた馬』(アガサ・クリスティー/ハヤカワクリスティー文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫) 、『プルースト効果の実験と結果』(佐々木愛/文春文庫)などがある。
