【第370回】間室道子の本棚 『多類婚姻譚』凪良ゆう/講談社
「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
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『多類婚姻譚』
凪良ゆう/講談社
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読書の楽しみのひとつに「暴かれる」がある。お前はこんな人間なんだぞ、と「本に読まれる」かんじ。
「傷ついた人々を描くきれいなお話」という印象だった凪良ゆう作品のなかで、本書ははじめてわたしをえぐってきた。人間関係の灰汁やエグみが処理されず巧妙に残ってるかんじ。第一話の「Thank you for understanding」で自分がどういう人間か、バレた。
主人公の小暮華は誰もが名を知る食品会社に勤務する三十七歳。このたび業績右肩上がりの健康食品事業部の課長に昇進した。故郷には二年ほど顔を見せていない。母は優秀な娘をほめる一方、結婚相手はいないの?的メッセージも寄こす。
じつは華は樹(いつき)と同棲中だ。
つきあって三年になるふたつ年下。半年前に人間関係が原因で会社を辞め、次が決まるまで、という条件で彼女の部屋に転がり込んできた。
家事はすると言ったが帰宅するとビールの空き缶や汚れた皿が片付けられていない。夜十時すぎでも出されるのは樹好みの餃子やチャーハン。そもそも学生時代から引きこもりを繰り返しており頻繁に離職するので失業保険をもらっていない。ここのところは職探しもしてないようでゲーム三昧。課長昇進を告げた時のリアクションは「もう華ちゃんの奥さんになって家にいようかなあ」――冗談めかしていたけど、あわよくば、が透けて見えた。いいところもある。でも田舎の両親にはとても紹介できない。
わたしは思った。華よ、ダメな相手につかまったんだね。とにかく働かないのはサイテーだ。
で、なんやかんやで彼女は樹を連れて正月に帰省することになる。「ありのままのわたしたちで行こう」。スーツを捨てちゃった樹は坊主頭にパーカー姿。夜中のガッツリ飯のために六キロ増量の華は服のファスナーがあがらない。駅弁とビールは買ったが時間がないので両親への手土産はパスだ。
そのあと読者および実家の面々が、樹のまるごとを知る瞬間がくる。
そしてわたしは気づいた。「ダメな相手」「働かないのはサイテー」が自分の中から消えてる・・・。樹に対し、まあ家に居てもしょうがないかあ、と甘くなってるのだ。これって逆に差別じゃね?
わたしは自分をSGDsをよく理解しているニューノーマルで、「何々はこうであれ」なんて考えから遠いと思ってた。でも奥底では「男はがんばるべし」「女の子は傷つきやすいんだもん」まみれだった。そして令和の最先端、「ありのままの自分たちで」の樹と華は、「田舎の専業主婦」であるお母さんから大逆襲を食らう。
ほかに、社内婚活にはげみまくる若い娘あり、離婚した浮気夫から慰謝料をねぎられる妻あり、ひたすら男を支え続けた有能な女性が彼のある言葉に不実を感じるお話あり、現代のカップルの生態を描く全五話。きっとあなたのモラルや愛の奥底もあらわになる!
「傷ついた人々を描くきれいなお話」という印象だった凪良ゆう作品のなかで、本書ははじめてわたしをえぐってきた。人間関係の灰汁やエグみが処理されず巧妙に残ってるかんじ。第一話の「Thank you for understanding」で自分がどういう人間か、バレた。
主人公の小暮華は誰もが名を知る食品会社に勤務する三十七歳。このたび業績右肩上がりの健康食品事業部の課長に昇進した。故郷には二年ほど顔を見せていない。母は優秀な娘をほめる一方、結婚相手はいないの?的メッセージも寄こす。
じつは華は樹(いつき)と同棲中だ。
つきあって三年になるふたつ年下。半年前に人間関係が原因で会社を辞め、次が決まるまで、という条件で彼女の部屋に転がり込んできた。
家事はすると言ったが帰宅するとビールの空き缶や汚れた皿が片付けられていない。夜十時すぎでも出されるのは樹好みの餃子やチャーハン。そもそも学生時代から引きこもりを繰り返しており頻繁に離職するので失業保険をもらっていない。ここのところは職探しもしてないようでゲーム三昧。課長昇進を告げた時のリアクションは「もう華ちゃんの奥さんになって家にいようかなあ」――冗談めかしていたけど、あわよくば、が透けて見えた。いいところもある。でも田舎の両親にはとても紹介できない。
わたしは思った。華よ、ダメな相手につかまったんだね。とにかく働かないのはサイテーだ。
で、なんやかんやで彼女は樹を連れて正月に帰省することになる。「ありのままのわたしたちで行こう」。スーツを捨てちゃった樹は坊主頭にパーカー姿。夜中のガッツリ飯のために六キロ増量の華は服のファスナーがあがらない。駅弁とビールは買ったが時間がないので両親への手土産はパスだ。
そのあと読者および実家の面々が、樹のまるごとを知る瞬間がくる。
そしてわたしは気づいた。「ダメな相手」「働かないのはサイテー」が自分の中から消えてる・・・。樹に対し、まあ家に居てもしょうがないかあ、と甘くなってるのだ。これって逆に差別じゃね?
わたしは自分をSGDsをよく理解しているニューノーマルで、「何々はこうであれ」なんて考えから遠いと思ってた。でも奥底では「男はがんばるべし」「女の子は傷つきやすいんだもん」まみれだった。そして令和の最先端、「ありのままの自分たちで」の樹と華は、「田舎の専業主婦」であるお母さんから大逆襲を食らう。
ほかに、社内婚活にはげみまくる若い娘あり、離婚した浮気夫から慰謝料をねぎられる妻あり、ひたすら男を支え続けた有能な女性が彼のある言葉に不実を感じるお話あり、現代のカップルの生態を描く全五話。きっとあなたのモラルや愛の奥底もあらわになる!

代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室 道 子
【プロフィール】
ラジオ、TVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『Precious』に連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『蒼ざめた馬』(アガサ・クリスティー/ハヤカワクリスティー文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫) 、『プルースト効果の実験と結果』(佐々木愛/文春文庫)などがある。
