【第378回】間室道子の本棚 『太陽に撃ち抜かれて』ジョヴァーニ・マルチンス 福嶋伸洋訳/河出書房新社
「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
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『太陽に撃ち抜かれて』
ジョヴァーニ・マルチンス 福嶋伸洋訳/河出書房新社
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すごいブラジル文学。
よく旅のバラエティ番組で言及されるが、日本では高台に富裕層が住み、下々の者は文字通り下に住んでる。でも南米では逆。貧しい層ほど傾斜の上のほうにたまり、お金持ちほど平地に豪邸を建てる。で、リオ五輪のときテレビで、丘の上にある「ファベーラ」と呼ばれる貧困集落のルポをやっており、「この国の問題です」と報道されてた。でもその「問題」の場所が「日常」である人たちもいるのだ。
各話の舞台はファベーラにかぎらないが、十歳で大麻を吸い始める子供、大人の使いパシリになりドラッグを売る八、九歳etc、年若い世代をスピードを持って写し取ることでその先に待つ大人になってからの深刻さがわかる。おすすめは二話目の「螺旋」。
南部のファベーラに住んでいる少年は、近隣の私立に通うやつらが彼を見てびびるのを面白いと思っていた。こっちの学校では誰も自分を怖がったりしない。ふだん彼をびくびくさせる、でかくて度胸のある連中になった気分。
ある日この子はひとりの老婆のあとをゲーム感覚で追ってみた。終了後にばあちゃんを思い出して己の行動に胸糞が悪くなったりしたけど、彼はこの奇妙な尾行がやめられなくなる。楽しさと怒りで。
相手がこっちに恐怖を感じるのは笑える。でもファベーラの子とわかる身なりじゃなければ、「あら、私になんの用かしら、坊や」てなもんだろう。それが、むこうはこちらを見るなり驚き、目をそむけ、じりじりと遠ざかろうとする。強くて目立つあこがれどころか少年を存在してはいけない者になった気持ちにさせるのだ。だから毎日社会の一定層にいる奴らからひとり選び、つけ回した。そしてある日から同じサラリーマンを追うようになり・・・。
あっと驚くと同時に、まあそうなるか、とドキドキが止まらない、ラストの少年の「気づき」に注目。
ほかに、警備員をしているお父さんが毎日自宅に持ち帰る拳銃をこっそりオモチャにしていた小学生がだんだんエスカレートしていくさまを描く「ロシアンルーレット」、居場所はファベーラしかないのに、という若者のヘマとそのてんまつを描く「横断」もおすすめ。
すべての作品の魅力は、どんよりしてないこと。「目の前真っ暗」って闇のなかにいるほかに、太陽がまぶしすぎて見えないって場合がある。そんな読み味の、今まで味わったことのない異様な明るさと迫力とヤバさに満ちた大傑作。
よく旅のバラエティ番組で言及されるが、日本では高台に富裕層が住み、下々の者は文字通り下に住んでる。でも南米では逆。貧しい層ほど傾斜の上のほうにたまり、お金持ちほど平地に豪邸を建てる。で、リオ五輪のときテレビで、丘の上にある「ファベーラ」と呼ばれる貧困集落のルポをやっており、「この国の問題です」と報道されてた。でもその「問題」の場所が「日常」である人たちもいるのだ。
各話の舞台はファベーラにかぎらないが、十歳で大麻を吸い始める子供、大人の使いパシリになりドラッグを売る八、九歳etc、年若い世代をスピードを持って写し取ることでその先に待つ大人になってからの深刻さがわかる。おすすめは二話目の「螺旋」。
南部のファベーラに住んでいる少年は、近隣の私立に通うやつらが彼を見てびびるのを面白いと思っていた。こっちの学校では誰も自分を怖がったりしない。ふだん彼をびくびくさせる、でかくて度胸のある連中になった気分。
ある日この子はひとりの老婆のあとをゲーム感覚で追ってみた。終了後にばあちゃんを思い出して己の行動に胸糞が悪くなったりしたけど、彼はこの奇妙な尾行がやめられなくなる。楽しさと怒りで。
相手がこっちに恐怖を感じるのは笑える。でもファベーラの子とわかる身なりじゃなければ、「あら、私になんの用かしら、坊や」てなもんだろう。それが、むこうはこちらを見るなり驚き、目をそむけ、じりじりと遠ざかろうとする。強くて目立つあこがれどころか少年を存在してはいけない者になった気持ちにさせるのだ。だから毎日社会の一定層にいる奴らからひとり選び、つけ回した。そしてある日から同じサラリーマンを追うようになり・・・。
あっと驚くと同時に、まあそうなるか、とドキドキが止まらない、ラストの少年の「気づき」に注目。
ほかに、警備員をしているお父さんが毎日自宅に持ち帰る拳銃をこっそりオモチャにしていた小学生がだんだんエスカレートしていくさまを描く「ロシアンルーレット」、居場所はファベーラしかないのに、という若者のヘマとそのてんまつを描く「横断」もおすすめ。
すべての作品の魅力は、どんよりしてないこと。「目の前真っ暗」って闇のなかにいるほかに、太陽がまぶしすぎて見えないって場合がある。そんな読み味の、今まで味わったことのない異様な明るさと迫力とヤバさに満ちた大傑作。

代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室 道 子
【プロフィール】
ラジオ、TVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『Precious』に連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『蒼ざめた馬』(アガサ・クリスティー/ハヤカワクリスティー文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫) 、『プルースト効果の実験と結果』(佐々木愛/文春文庫)などがある。
