【第380回】間室道子の本棚 『最後の晩餐』江國香織 金原ひとみ 角田光代 寺地はるな 原田ひ香 藤野千夜 井上荒野/角川春樹事務所
「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
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『最後の晩餐』
江國香織 金原ひとみ 角田光代 寺地はるな 原田ひ香 藤野千夜 井上荒野/角川春樹事務所
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「今百万円手に入ったら何に使う?」「無人島に三つ持っていくとすれば何?」など閑なときによく出る会話ねたがあるが、もう一つの定番は「人生の最後に何を食べたいか」。
本書はこれをお題にした女性作家七人によるアンソロジー。居酒屋の雑談あるあるみたいなたわいもないテーマを彼女たちがどのように大人の小説に仕上げているかに注目。おすすめは井上荒野さんの「最後の晩餐」。
桜子の夫・審輔が、四カ月前に八十一歳で逝った。良き夫で良き父親。たいへんな嘘つきだったが、家族のみんながそれを含めて彼を愛していた。
どのくらい「たいへんな」だったかというと、回数とか内容のうまいへたではなく、詰めすぎというか逆に詰めの甘さというか。
たとえば、ある俳優を見た、と言ったあと、彼はダンプカーに轢かれそうになってた黒猫を救ったんだ、とつけ加えるのである。事実ならSNSが大騒ぎだろうに、そんなことはないので嘘だとわかる。ほかにも「山の中の上棟式(彼は建築家だった)の最中に自分だけが熊を見た」、娘たちが小さかった頃は「白馬の王子様が道に迷っていた」(!)
でもあれだけは本当だったんだ、と死ぬ間際に病院で二人だけになったとき、審輔は桜子に言ったのだという。かつて話した、「最後の晩餐」という店について。
長野県の山奥にそういう名前の店がある。メニューは刺身、焼き魚、とんかつ、ラーメン、なんでも絶品。一日限定一組の紹介制。審輔はそれを施主から聞いたそうで、連れて行ってもらう約束もしてある、そのあと家族でいこう、嘘じゃないよ、本当だよー―。
あの時は誰もが、はいはい、と聞き流してた。でも、みんなを連れていきたかった、絶対連れていくつもりだったって、と病室を出た桜子は娘たちに告げたのだ。
で、娘のうちの一人が父のこの最期の想いに熱中し、ネット検索を繰り返してついにお店の手がかりを見つけた、と連絡してきた。個人のブログで、あとでもう一回見ようとしたら更新切れだかなんだかで今はでてこない。でも場所は長野の伊那だった。
というわけで桜子と、長女の緑、次女茜、茜の娘である海杜の四人は十月のある日、最後の晩餐めざして車で珍道中。「紹介制」とか「限定」とかは置いといて、とにかく前に進むのだ。
物語には「え、そういう話なの!?」がつぎつき起こり愉快。そしてなによりの読みどころは、家族がかわらずひとつであること。
審輔は亡くなったけど、彼女たちは“欠けた集団”ではない。思い出と愛と行動がどんどん埋め込まれ、みんながひとつだ。「誰かがまずあっての自分」とか「どうせ人生には限りが」はうっちゃって、とにかく前に進むのだ!
実は桜子にはひみつがあったのだが、やがてその胸の内に変化が・・・。
ほかに、江國香織さん作の、昔とはずいぶん雰囲気が違って近未来の場所みたいになってたコインランドリーで最後の一食を考える六十代の女性の話あり、角田光代さんの、食にうるさかった一家のあるじがいよいよ大往生かという夜、家族が鰻をめぐって大騒動の一編あり。
あなたなら何を食べますか?
本書はこれをお題にした女性作家七人によるアンソロジー。居酒屋の雑談あるあるみたいなたわいもないテーマを彼女たちがどのように大人の小説に仕上げているかに注目。おすすめは井上荒野さんの「最後の晩餐」。
桜子の夫・審輔が、四カ月前に八十一歳で逝った。良き夫で良き父親。たいへんな嘘つきだったが、家族のみんながそれを含めて彼を愛していた。
どのくらい「たいへんな」だったかというと、回数とか内容のうまいへたではなく、詰めすぎというか逆に詰めの甘さというか。
たとえば、ある俳優を見た、と言ったあと、彼はダンプカーに轢かれそうになってた黒猫を救ったんだ、とつけ加えるのである。事実ならSNSが大騒ぎだろうに、そんなことはないので嘘だとわかる。ほかにも「山の中の上棟式(彼は建築家だった)の最中に自分だけが熊を見た」、娘たちが小さかった頃は「白馬の王子様が道に迷っていた」(!)
でもあれだけは本当だったんだ、と死ぬ間際に病院で二人だけになったとき、審輔は桜子に言ったのだという。かつて話した、「最後の晩餐」という店について。
長野県の山奥にそういう名前の店がある。メニューは刺身、焼き魚、とんかつ、ラーメン、なんでも絶品。一日限定一組の紹介制。審輔はそれを施主から聞いたそうで、連れて行ってもらう約束もしてある、そのあと家族でいこう、嘘じゃないよ、本当だよー―。
あの時は誰もが、はいはい、と聞き流してた。でも、みんなを連れていきたかった、絶対連れていくつもりだったって、と病室を出た桜子は娘たちに告げたのだ。
で、娘のうちの一人が父のこの最期の想いに熱中し、ネット検索を繰り返してついにお店の手がかりを見つけた、と連絡してきた。個人のブログで、あとでもう一回見ようとしたら更新切れだかなんだかで今はでてこない。でも場所は長野の伊那だった。
というわけで桜子と、長女の緑、次女茜、茜の娘である海杜の四人は十月のある日、最後の晩餐めざして車で珍道中。「紹介制」とか「限定」とかは置いといて、とにかく前に進むのだ。
物語には「え、そういう話なの!?」がつぎつき起こり愉快。そしてなによりの読みどころは、家族がかわらずひとつであること。
審輔は亡くなったけど、彼女たちは“欠けた集団”ではない。思い出と愛と行動がどんどん埋め込まれ、みんながひとつだ。「誰かがまずあっての自分」とか「どうせ人生には限りが」はうっちゃって、とにかく前に進むのだ!
実は桜子にはひみつがあったのだが、やがてその胸の内に変化が・・・。
ほかに、江國香織さん作の、昔とはずいぶん雰囲気が違って近未来の場所みたいになってたコインランドリーで最後の一食を考える六十代の女性の話あり、角田光代さんの、食にうるさかった一家のあるじがいよいよ大往生かという夜、家族が鰻をめぐって大騒動の一編あり。
あなたなら何を食べますか?

代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室 道 子
【プロフィール】
ラジオ、TVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『Precious』に連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『蒼ざめた馬』(アガサ・クリスティー/ハヤカワクリスティー文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫) 、『プルースト効果の実験と結果』(佐々木愛/文春文庫)などがある。
