【第386回】間室道子の本棚 『けんぐゎい』 朝倉かすみ/光文社
「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
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『けんぐゎい』
朝倉かすみ/光文社
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まずは表紙の勝利。非常にインパクトのある画。この欄の第343回の『ユージニア』で述べたように、装幀っていんちきおせちみたいな、「蒔絵のお重にハム一枚」じゃダメ。「この側(がわ)につりあうストーリーなんですよね、あ“?!」と意味もなくスゴみながら読み始めたのだが結果上等。画のくゎいぶつに勝るとも劣らぬ大傑作。
(ちなみに俵屋宗達あたりの、縦横無尽で豪快な江戸絵師の作品かと思ったら、feebeeという現代アーティストのものだった)
『けんぐゎい』はいうなれば、大江戸シスターフッド小説。重い疱瘡にかかり、顔にもからだにもあばたが無数に残ったけどおそろしく頭のいい娘に育ったふゆ。その妹で、縹緻(きりょう)良しだがとつぜん興奮してひっくりかえり、妄言がとめどなく口から出てくるりよ。ふゆのつとめ先である手習所・疋田家の女中つる、当家の嫁となったほの、十四歳の妊婦ちか。彼女たちを中心に、男たち、権力側、搾取側から「けんぐゎい(圏外)」とされてきた女たち――身分も見目も立場も性格もさまざまな者たちが、大逆襲をなしとげる痛快な物語なのである!
特筆すべきはテンポ。落語、講談、小唄、どどいつなどをほうふつとさせるリズムで話がどんどん進む。たとえば、奉公先から逃げてきたりよが、店の主人にあることをされた、と母親に訴えるシーン。
「旦那さまがグ、グ、グ、グワアアッと」
さらに、ええとこのお嬢さんで疋田家に嫁いで来たほのが、幼少期にお転婆が原因で負った火傷について語る場面。
「台所で、あたしと女中なん人かがだんごになって転んで、火にかけてた鍋もどんがらがっちゃーんって引っくり返って、莫迦笑いしてるあたしに泡が沸いてるほど熱いのがかかったってわけなの」
物語後半には女たちが男の死体を前に、かたちが「け」みたいとか「し」だとか「た」だとか、仮名文字にたとえあう場面もある。
いずれも笑いごとではない!でも事態の悲惨さを擬音擬態語や語り口調が緩和。サイアクのことが起き、このあと選べるのは縮こまるか跳ね飛ばすかだ、という時、本書の女たちはかならず後者を選ぶのだ。
大残酷を素っ頓狂で乗り切るパワー。ここぞという時出る「アイサ、心得た」というふゆの名調子。女たちの心をそろえた掛け合い、軽快な娘コトバ(「じょーじょーじょーじょーじょーしゅび(上上上上上首尾)」、「多田屋、最高」!)、異様なあかるさで困難な道がどんどこ進む。
圏外にいる者を描く小説は「どうやって中に入れてもらいますか?」がテーマになることが多い。でも本書は「男並みに」とか「男まさり」は目指してない。シスターフッドものでよくある「成長小説」ともちがう。けんぐゎいがけんぐゎいのままで手を組み、「持って生まれた味」をそれぞれが噛みしめる。
ラスト一文があまりにカッコいい、第175回直木賞受賞作。
(ちなみに俵屋宗達あたりの、縦横無尽で豪快な江戸絵師の作品かと思ったら、feebeeという現代アーティストのものだった)
『けんぐゎい』はいうなれば、大江戸シスターフッド小説。重い疱瘡にかかり、顔にもからだにもあばたが無数に残ったけどおそろしく頭のいい娘に育ったふゆ。その妹で、縹緻(きりょう)良しだがとつぜん興奮してひっくりかえり、妄言がとめどなく口から出てくるりよ。ふゆのつとめ先である手習所・疋田家の女中つる、当家の嫁となったほの、十四歳の妊婦ちか。彼女たちを中心に、男たち、権力側、搾取側から「けんぐゎい(圏外)」とされてきた女たち――身分も見目も立場も性格もさまざまな者たちが、大逆襲をなしとげる痛快な物語なのである!
特筆すべきはテンポ。落語、講談、小唄、どどいつなどをほうふつとさせるリズムで話がどんどん進む。たとえば、奉公先から逃げてきたりよが、店の主人にあることをされた、と母親に訴えるシーン。
「旦那さまがグ、グ、グ、グワアアッと」
さらに、ええとこのお嬢さんで疋田家に嫁いで来たほのが、幼少期にお転婆が原因で負った火傷について語る場面。
「台所で、あたしと女中なん人かがだんごになって転んで、火にかけてた鍋もどんがらがっちゃーんって引っくり返って、莫迦笑いしてるあたしに泡が沸いてるほど熱いのがかかったってわけなの」
物語後半には女たちが男の死体を前に、かたちが「け」みたいとか「し」だとか「た」だとか、仮名文字にたとえあう場面もある。
いずれも笑いごとではない!でも事態の悲惨さを擬音擬態語や語り口調が緩和。サイアクのことが起き、このあと選べるのは縮こまるか跳ね飛ばすかだ、という時、本書の女たちはかならず後者を選ぶのだ。
大残酷を素っ頓狂で乗り切るパワー。ここぞという時出る「アイサ、心得た」というふゆの名調子。女たちの心をそろえた掛け合い、軽快な娘コトバ(「じょーじょーじょーじょーじょーしゅび(上上上上上首尾)」、「多田屋、最高」!)、異様なあかるさで困難な道がどんどこ進む。
圏外にいる者を描く小説は「どうやって中に入れてもらいますか?」がテーマになることが多い。でも本書は「男並みに」とか「男まさり」は目指してない。シスターフッドものでよくある「成長小説」ともちがう。けんぐゎいがけんぐゎいのままで手を組み、「持って生まれた味」をそれぞれが噛みしめる。
ラスト一文があまりにカッコいい、第175回直木賞受賞作。

代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室 道 子
【プロフィール】
ラジオ、TVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『Precious』に連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『蒼ざめた馬』(アガサ・クリスティー/ハヤカワクリスティー文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫) 、『プルースト効果の実験と結果』(佐々木愛/文春文庫)などがある。
