【第384回】間室道子の本棚 『はいつくばって』 ミランダ・ジュライ 岸本佐知子訳/新潮クレスト・ブックス

「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
 
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『はいつくばって』
ミランダ・ジュライ 岸本佐知子訳/新潮クレスト・ブックス
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赤裸々な小説。読後、ストリップについてのある翻訳家の見解を思い出した。

あの催しは正確にはストリップティーズ=strip(脱ぐ)+tease(じらす・こまらせる)といい、だいじなのはstripよりもteaseのほうである。”おっぴろげー”とか”ぶっちゃけー”じゃなくて、はじらいが肝腎。そして、”踊り子さんのはにかみでオトコの加虐性や優越感が満たされてー”、ではあまりに単純。はじらう彼女たちを見てこちらもはずかしくなりたいのである。秘密の共有。というわけで、どんなに広いフロアでも、お客一人一人に、”あなたのために脱いでるの”と思わせる。それが一流のストリッパーである、とのことだった!

閑話休題、ノンフィクションではないが、きっと自身の実験や体験が入ってると思わせる体温と肌感。それが著者ミランダ・ジュライの持ち味である。

『はいつくばって』の主人公は、音楽プロデューサーの夫と幼い子供がいるアーティストの「わたし」。彼女は自分の四十五歳のお誕生日記念に、車でLAからNYまで行って戻ってくる、というひとり旅を計画する。

ところが、移動と滞在含めてアメリカ横断往復合計九千キロ&二十日くらいの旅ルポかあ、と思われた本書は、初日から急激に狭い話になる。引きで撮るのではなくぐーーーーっと寄るかんじ。果てしなき大地どころか建物の一室。そこで「わたし」は十四歳年下の男(ちなみに既婚者でレンタカー会社勤務。かつて彼女がさんざん熱をあげたタイプ)と・・・。

本書には性的な妄想と実行が今までのミランダ作品にはなかったほど出てくる。「わたし」はLAで夫と週一でセックスしていたが、心のレベルでの「裸のつきあい」はできていない。一方出会って惹かれた若い男に対し、彼女は身も心もたぎらせる。このなりふりかまわなさを細やかな心に落とし込んでお話にするのがミランダさんの真骨頂。

だからエロティックな描写でも、「読んでいて興奮!」には導かれない。「わたし」の大胆さが伝えてくるのは、いたましさ、ひたむきさだ。”主人公はこれだけさらしました。あなたはどう?”とミランダさんが全身で問いかけてくる。一対一。読み手のためのむき出しの心は、こちらの自由とか喪失とか愛を丸裸にする。

お話の終わり近く、体の異変におそわれた主人公のために女友達が電話でエクササイズを教えてくれる。頭を右に、倒れる、頭を左に、横を向き、起き上がる。何度も何度も、それを繰り返す。これってダンスみたい、歌、祈りみたい、と思う彼女に、私は付け加えたくなった。”人生もそうかも”って。

ラストが夢みたいにきれいな感動作。
 
 
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代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室  道 子
 
【プロフィール】
ラジオ、TVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『Precious』に連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『蒼ざめた馬』(アガサ・クリスティー/ハヤカワクリスティー文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫) 、『プルースト効果の実験と結果』(佐々木愛/文春文庫)などがある。

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