【第387回】間室道子の本棚 『ダーク・ダーク』サマンサ・ハント 壁谷さくら訳/白水社
「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
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『ダーク・ダーク』
サマンサ・ハント 壁谷さくら訳/白水社
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第116回の『アニーはどこへ行った』、217回の『その昔、N市では』、323回の『人形のアルファベット』など、なんかへんなもの読んじゃったなあ、という作品をいくつか紹介してきたけど本書はそのきわみ。
いままでこんなものは読んだことがない。独創的。こわいというより異常な話。「これって実際起きたことですか、主人公の妄想ですか」の区別がつかないし、ついたとて、なのだ。
事態の原因と結果がつながらない。日常と非日常の反転でもないし、「この人ふたりは同一人物の陰と陽なのでは」でもおさまらない。読み味のいちばん近い感覚は、「分断」だろうか。
たとえば「黄色」というお話では、四十二歳で実家に戻ってきた男がとつじょ自分の部屋の壁をペンキで黄色に塗りたくる。で、達成感と高揚を得た彼は夜のドライブに出る。そして住宅の立ち並ぶエリアでアクシデントが起き、助けを求めていちばん近い一軒を訪ねると女の人が出てきて――。ラストシーン、彼はこの家の庭にひとり立っている。
「自室をまっ黄色にしたことにより最終的に他人の家の庭にいます」は、原因/結果としておかしいし、ずーっと同じ夜のできごとなのに、ぶつっ、ぶつっ、と場面、関係性が切断され、主人公はどんどんへんな感じになっていく。読者は気づく。不穏さに巻き込まれ続けた彼は、最後に自身が不穏な存在になっていないか?他人の庭に立ち尽くす彼の手には、ある物が握られているのだ。
さらに、「総員」というお話。まず舞台は夜の海。沿岸警備隊員とタンカーの乗組員がでてくる。で、場面変わってある高校の話になる。女生徒たち十三人に異変が起きているのだ。校長先生は、空に月が十三個の月が浮かんでいたってこれほど驚かない、と思うが彼になすすべはない。一人とか二人なら偶然で解釈できる。でもこの人数が同時にだと、なんらかの「しめしあわせ」がうかがえるけど彼女たちは口を割ろうとしない。
そしてまた夜のタンカーの場面。読みながらふと、「この人物って、もう死んでるんじゃ・・・」と思えるんだけど、生きてますか幽霊ですか、を問う話でもない。こわさはそこにはない。
どの話もラストは静かな極限状態を迎えている。どうしたら救える?良くなる?は方向として消え、登場人物も読者も、ただ虚無のなかにいる。
白に対しての黒、明るさに対しての暗さではなく、ひたすら違った種類の暗黒が層を成しているのが魅力的。まさに、ダーク・ダークな短篇集。
いままでこんなものは読んだことがない。独創的。こわいというより異常な話。「これって実際起きたことですか、主人公の妄想ですか」の区別がつかないし、ついたとて、なのだ。
事態の原因と結果がつながらない。日常と非日常の反転でもないし、「この人ふたりは同一人物の陰と陽なのでは」でもおさまらない。読み味のいちばん近い感覚は、「分断」だろうか。
たとえば「黄色」というお話では、四十二歳で実家に戻ってきた男がとつじょ自分の部屋の壁をペンキで黄色に塗りたくる。で、達成感と高揚を得た彼は夜のドライブに出る。そして住宅の立ち並ぶエリアでアクシデントが起き、助けを求めていちばん近い一軒を訪ねると女の人が出てきて――。ラストシーン、彼はこの家の庭にひとり立っている。
「自室をまっ黄色にしたことにより最終的に他人の家の庭にいます」は、原因/結果としておかしいし、ずーっと同じ夜のできごとなのに、ぶつっ、ぶつっ、と場面、関係性が切断され、主人公はどんどんへんな感じになっていく。読者は気づく。不穏さに巻き込まれ続けた彼は、最後に自身が不穏な存在になっていないか?他人の庭に立ち尽くす彼の手には、ある物が握られているのだ。
さらに、「総員」というお話。まず舞台は夜の海。沿岸警備隊員とタンカーの乗組員がでてくる。で、場面変わってある高校の話になる。女生徒たち十三人に異変が起きているのだ。校長先生は、空に月が十三個の月が浮かんでいたってこれほど驚かない、と思うが彼になすすべはない。一人とか二人なら偶然で解釈できる。でもこの人数が同時にだと、なんらかの「しめしあわせ」がうかがえるけど彼女たちは口を割ろうとしない。
そしてまた夜のタンカーの場面。読みながらふと、「この人物って、もう死んでるんじゃ・・・」と思えるんだけど、生きてますか幽霊ですか、を問う話でもない。こわさはそこにはない。
どの話もラストは静かな極限状態を迎えている。どうしたら救える?良くなる?は方向として消え、登場人物も読者も、ただ虚無のなかにいる。
白に対しての黒、明るさに対しての暗さではなく、ひたすら違った種類の暗黒が層を成しているのが魅力的。まさに、ダーク・ダークな短篇集。

代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室 道 子
【プロフィール】
ラジオ、TVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『Precious』に連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『蒼ざめた馬』(アガサ・クリスティー/ハヤカワクリスティー文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫) 、『プルースト効果の実験と結果』(佐々木愛/文春文庫)などがある。
