【第389回】間室道子の本棚 『1+1 ワン プラス ワン』井上荒野/潮出版社

「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
 
* * * * * * * *
 
『1+1 ワン プラス ワン』
井上荒野/潮出版社
※画像をクリックすると購入ページへ遷移します。
 
* * * * * * * *
 
食べ合わせの妙ってある。意外なものを一緒に口にしてみたらおいしい、というやつ。私の周辺でもっとも評判がいいのは、「いぶりがっこ(秋田の燻したたくわん)にクリームチーズ」。もっともブーイングをくらっているのは「生ハムにメロン」で、あの組み合わせを美味しいと思うやつの気がしれない、とまで言われている!

さて、本書は料理と飲み物のペアリングをテーマにした短編集で、組みあわせがそのまま各話のタイトルになっている。じつは「人合わせ」の話でもあるのがミソ。紹介するのは「出汁巻き玉子と、おりがらみの酒」。

笹塚のこじんまりした料理屋さんに、圭輔が四人の部下を連れて飲みに来ている。飲み会は部署の月イチの恒例で、前の課長は明るくて慕われていたけど新任の自分はさえない小太りのおっさんだ、と彼は思っている。みんないやいや来てるんじゃないか、若い連中の好みは何だ、今の自分は感じ悪くなかったか、そんなことにとらわれていると、「うえっ」という男の声が聞こえてきた。

カウンター席に若いカップルがいて、さっきから彼氏のほうが彼女の食べたいものに難癖をつけ、それがこちらのグループや女将さん、大将にも丸聞こえなのだ。圭輔の胸に苦いものがこみあげる。なぜなら、昔は自分もああだったからだ。

「うえっ」は女性が選んだ出汁巻き玉子を口にしてのものだった。そもそも玉子焼きとか金払って食いたくねーし、と言ってた奴だったが、べしゃべしゃしてるだの出汁なんていらねーだの、もう聞いていられない。圭輔は声を張り、女将さんに――。ここから大逆転が起きる。

不作法イキリ男は圭輔と部下たちに投げ入れられた釘みたい、と思った。茄子のぬか漬けをつくるとき釘を入れると色よく仕上がるらしいのだが、無難さだけでは人と人って結びついていかないのだ。ほかにも、“餃子の中の大豆”とか、”電車で拾った忘れ物”、”豆まきのお誘い”、”元彼からの相談”etc. 思わぬものが放り込まれた時どう出るか。それが各話の男女、男男、女女の心のつながりどころ。そしてでてくる味の仕上がりどころ!

他の短編タイトルは、「鱚(きす)のフライと白ビール」「ラプサンスーチョン(中国紅茶)とダイジェスティブビスケット」「メロンパンとインスタントスープ」(ちなみにコンソメ味)「焦がしてしまった鰤(ぶり)の照り焼きと、スペインの赤ワイン」など、なるほどおいしそう!もあれば、ホントー?もある。いずれにしろ期待を裏切らない面白さで、”この人は、前の話にいたあの人だ!”も楽しい。不作法彼氏もまた出てくるよ!

”割烹・井上”の暖簾をくぐったわれわれに、ハチマキ姿の荒野さんが「いらっしゃい!」と挨拶をして腕まくり。そんな全二十四編。
 
 
* * * * * * * *
 
(Yahoo!ショッピングへ遷移します)
 
 
代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室  道 子
 
【プロフィール】
ラジオ、TVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『Precious』に連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『蒼ざめた馬』(アガサ・クリスティー/ハヤカワクリスティー文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫) 、『プルースト効果の実験と結果』(佐々木愛/文春文庫)などがある。

SHARE

一覧に戻る