【第35回】間室道子の本棚 『リトルガールズ』 錦見映理子/筑摩書房

~代官山 蔦屋書店文学コンシェルジュが、とっておきの一冊をご紹介します~


「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
 
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『リトルガールズ』
錦見映理子/筑摩書房
 
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五十代半ばで独身、家庭科の先生として働いてきた大崎雅子は、昨年自ら希望し非常勤にしてもらった。時給制のアルバイト。もう生徒や父母や同僚の目を気にしなくていい。というわけで彼女は五十五歳の誕生日に買ったピンクのワンピースを着て参観日の授業をした。以来ずーっと全身ピンク。

ガマガエルに似ているので生徒たちに「ガマ子」というあだ名を付けられていた彼女は、「エロ子」「ピンクばばあ」となる。でも平気。

服は量販店の安物などではなくセレクトショップのブランド品や、丁寧に選び抜いた布で型を真似て自分で縫った一品。長年まじめに働いてきて、いいものを身に着けるお金はある。見た目がいけてない、それだけで、小さいころからどう扱われてきたか。もう十分。私を嫌いなやつらのために私が好きなことを我慢するなんて、もうやめ。

そんな彼女に、新任の若い美術教師・猿渡壮太が近づいてくる。あなたには真の美がある、と言って。そして絵のモデルに、と猛烈なアプローチをするのだ。

ピンクへの欲望に忠実にはなっても顔とスタイルのことはよーくわかっている。からかわれたのかと侮辱を感じ、次に怒りがこみ上げ、最後は薄気味悪く思う大崎先生。

猿渡が実力もなにもないんだったら物語は単純なところに着地するだろう。でも彼は、有名ギャラリーのグループ展にここ数年必ず声をかけられて参加、個展の開催も決まっている男だった。

大崎先生の困惑は、猿渡が力を発揮するのがヌードだと知ったことで頂点に達する。モデルなんかやらない!しかし万一の場合、私は裸に!?

一方猿渡には若い恋人・ルイ子がいた。付き合い始めてから彼のモデルはほぼすべて彼女。美貌自慢のルイ子は私こそが猿渡のインスピレーションの源、美の女神ミューズであると自負していた。しかし最近猿渡は自分を描かなくなり、デッサンしまくられているのは不細工なおばさん。これは誰!?

逃げる大崎先生と迫る猿渡、プライドがずたずたのルイ子と描きたいものに妥協はしない猿渡、不格好な中年女への情熱を「単なる猿渡の謎のブーム」「彼はスランプ」と決めつけ安心しようとするルイ子と猿渡は私の中に何を見ているんだろう、と気になり始める大崎先生。みつどもえのバトルやいかに!

このほかに女の子たちの恋愛があったり、どうしても夫を好きになれない妻が出てきたり、いろんな登場人物が出きて、誰にフォーカスを当てて読むかでまったく違う読み味になる。ページを閉じて、そんなに厚い本じゃないのに、あれだけの物語がいくつもつまっていることに感動。第34回太宰治賞受賞作。

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代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室  道 子
 
【プロフィール】
雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『婦人画報』、『Precious』、朝日新聞デジタル「ほんやのほん」などに連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『タイニーストーリーズ』(山田詠美/文春文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫)などがある。

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