【第33回】間室道子の本棚 『続 横道世之介』 吉田修一/中央公論新社

~代官山 蔦屋書店文学コンシェルジュが、とっておきの一冊をご紹介します~


「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
 
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『続 横道世之介』
吉田修一/中央公論新社
 
 
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「あの横道世之介が帰ってきた!」と聞き、驚くファンは多いだろう。2009年に刊行された正編『横道世之介』で、彼は死んだことになっているからだ。

あっ、でも、これにミステリのネタバレ的重要度はない。「よ、よのすけ!」「み、みんな、今までありがとう…。ガクッ」と言ったシーンが正編にあるわけではなく、彼の消え方に工夫と品がある。
また、いつまでも末永く幸せに暮らしましたとさ、で終わるにっぽん昔ばなしの皆さんだって、ただ一人生き残った70年代大ヒットのハードボイルドのヒーローだって、いつかは死ぬ。「え、花咲かじいさんはもうご存命じゃないの?がっかりだわー」とか「70年代のあのヒーローは当時47歳の設定だったから2019年の今は96歳かあ。ご長寿だなあ」と言うファンはいない。いずれにしろ読者の中で、愛すべき登場人物は生き続けるのだ。

さて、本書『続 横道世之介』を読んで、少々驚いた。世之介ってこんなにやさぐれてたっけ?あわてて正編(現在文春文庫。好評発売中!)を読み返し、時の流れを感じた。
今だったら大炎上の先生(セクハラ授業)とかあぶない個人情報の扱い(宅配業者のためとはいえ、「今留守をしていて202号室にいます」という張り紙をアパートの自室のドアに堂々貼る)とかが出て来るのだ。
この10年、価値観が変遷し、正せるものは正された。でもいろんなところにアソビがなくなり、牧歌的な生活はもうできないんだなあ、と思う。

閑話休題、『続 横道世之介』の舞台は正編から数年後。大学を卒業した世之介は就職に失敗し、パチンコが重要な生活手段になっている。新台取りに命をかけ女性を押しのけたり、大学時代の友達とつるみ双眼鏡で覗き見をしたりしている。大学入学のため長崎から東京に引っ越して来た当日、アパートの2つ隣の部屋のお姉さんに招かれ初対面の女性の部屋でシチューを3杯もおかわりした(ちなみに留守の張り紙はこの時)、正編のあの純朴さはどこに…!

しかし変わらぬものもある。世之介は今回もやたらと人にかまわれる。「モテ」とは違う。道端に犬ころがいれば皆抱き上げたり頭を撫でたりするが、犬はモテているわけではない。で、世之介は正編の四分の三あたりで、れいのシチュー姉さんに「隙がなくなった」と指摘され、「今の世之介くんが越してきても、声はかけない」と言われてしまう。でもまあ、気にしなくていい。お姉さんというものは、年下の男にあれこれ言ってみたいものだからだ。秋を過ぎても引越し当日と同じだったら、それはそれでセッキョーされるに決まっているのである!

再び閑話休題、正編で学生として東京に慣れ、隙がなくなったかもしれないけど、真っ当な社会人になりそこない、バブル後の世間で浮いている世之介はあらたなる隙だらけ!ヤンキー美女、その兄、その父、スキンヘッド(女性)、バイト先の社長などにかまわれ、ある人とは残念は別れ方をし、ある人とはまさかの…!

出会った誰の胸にも残らずにはいられない変な魅力が今回も炸裂。生みの親もそうで、作者・吉田修一さんも、久しぶりに世之介にかまいたくなり続編を書いたんじゃないか・・・。そんな想像も楽しい青春小説第二弾!

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代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室  道 子
 
【プロフィール】
雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『婦人画報』、『Precious』、朝日新聞デジタル「ほんやのほん」などに連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『タイニーストーリーズ』(山田詠美/文春文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫)などがある。

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