【第21回】間室道子の本棚 『宮部みゆき全一冊』宮部みゆき/新潮社

~代官山 蔦屋書店文学コンシェルジュが、とっておきの一冊をご紹介します~


「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
 
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『宮部みゆき全一冊』
宮部みゆき/新潮社
 
 
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めでたい会の帰りにもらうおみやげのような、白地に金文字、赤のりぼんのイメージの装丁。本書は宮部みゆきさんの作家生活30周年記念の本だ。「立ち止まって振り返る30年の道のり」と題された超ロングインタビュー、未収録エッセイや対談、果ては自作朗読のCDまでついていて、超お買い得!

注目は未収録短篇3つで、こういう記念刊行物に入る未収録作品って、ぶっちゃけ「今まで未収録だったのも無理はない」、つまり出来としていまいちであるケースが、チラホラとある。しかしこの篇はいずれも今までスルーされていたのが不思議であり、とくにゲーム小説「泣き虫のドラゴン」は、え、ここで終わるの?!という短さが、逆に読後の広がりを与えてくれる。「この先」がいつかきっと・・・。そんな物語なのだ。

戦慄は、「藤田新策画廊」。新潮文庫の宮部作品のカバーはすべて藤田氏によるものだが、「表紙」ではなく一枚の絵として見ることができる。これがまあ怖い。最初の「悲嘆の門」なんて、絵に飲まれそうである。

藤田氏の絵画はどれも、殺人現場とか化け物とかの「恐怖の実物」ではなく、なにかが起きるぞ、という気配を描く。暗闇以上にポツンと灯るあかりがこわい。沈んだ屋内よりも外に見える異様な青空がこわい。そんな絵なのに、目を背けるのではなく、見入ってしまう。待ち構えている恐怖がたまらなく魅力的であることを予感させるムードが、宮部作品の扉として、うってつけ。

このほか、日記コーナーでは「仕事時間でも、わたしはテレビをつけっぱなしにしています」という一行に仰天し、(あんな濃度のミステリを、テレビの画と音の中で!?)、佐藤優氏との対談では「宮部作品に出会ったのは、2002年に逮捕された時。拘置所には本を貸し出してもらえるシステムがあり、宮部作品はだいたい誰かが借りていて、東京拘置所内での愛読率は非常に高いと思う」という佐藤氏の発言に喜ぶべきか引くべきか迷い、いしいひさいち氏の漫画の「もしミヤベミユキがスティーブン・キングではなくスティーブン・セガールにはまっていタラ」「小説教室ではなく三味線教室に通っていタラ」などの展開に唖然。

どこから読んでも、集大成であり、かつ新しい宮部さんの魅力にふれることができる。30年続けてきたことに、「おめでとう」とともに「ありがとう」と言いたくなる、ファン感謝の1冊。
 
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代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室  道 子
 
【プロフィール】
雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『婦人画報』、『Precious』、朝日新聞デジタル「ほんやのほん」などに連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『タイニーストーリーズ』(山田詠美/文春文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫)などがある。
 

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