【第20回】間室道子の本棚 『地球星人』村田沙耶香/新潮社

~代官山 蔦屋書店文学コンシェルジュが、とっておきの一冊をご紹介します~


「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
 
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『地球星人』
村田沙耶香/新潮社
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村田沙耶香さんの小説を読むといつも、重症だなあ、と思う。

彼女の作品の多くは、生きている世界の決まりごととか常識に従えず、苦しい思いをしている人が主人公で、じゃあ内に入れるようになることが解決、そして幸せへの道なのかというと、そうではないところが悩ましい。また、登場人物たちが決して「かわいそうな、同情すべき、弱々しい人間」じゃないのも読みどころ。彼らには頑固なところや信念があり、時に異常さを発揮する。芥川賞受賞作『コンビニ人間』はその極地のような作品だったが、最新作もべらぼうである。

主人公は小学五年生の女の子で、お父さん、お母さん、お姉さんのゴミ箱のようになっている。みんな、嫌な気持ちが膨らむと、この子にそれを捨てるのだ。ため息や、不機嫌さ丸出しの声、心ない言葉で。

そんな主人公は、自分はポハピピンポボピア星からの密命を受けた魔法少女で、地球を守っている、と思っている。そして、「虐待に近いことをされている女の子が現実逃避として作り上げた夢世界なのね」ではすまない展開に、物語はなる。

大人になった彼女は、自分と似た考えの男と結婚する。でも「手を取り合える人があらわれてよかったね」とはならない。海で溺れている人が自分の近くで溺れている人を見つけたからといって、彼らに向かって「仲間が増えていいね」とは誰も言わないように。

そのうえ、この男がまあスゴイ。村田作品の作用に「出て来る人のぶっ壊れぶりに、変なところで笑ってしまう」があるけど、本書もそう。怒りや涙ではなく、あいまいな笑みを浮かべながら、主人公も読者も、追い詰められていく。

読み終わったあと、読書の味が違ってしまった。今まで読んでいた小説の、なんの違和感もなかった恋愛や「女の幸せ」を語るシーンに、「地球星人たちは、ちゃくちゃくと活動しているんだなあ」と思ってしまうのだ。さらに本の外でも、「生産性のない人間」という発言が国会議員の口から発せられており、こりゃ重症。

そう、村田ワールドの病状は、わたしたちの症状なのだ。これからも読み続け、「少しは持ち直したかも」とか「世界はもう危篤」とか、希望を持ったり悲鳴をあげたりしていきたい。
 
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代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室  道 子
 
【プロフィール】
雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『婦人画報』、『Precious』、朝日新聞デジタル「ほんやのほん」などに連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『タイニーストーリーズ』(山田詠美/文春文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫)などがある。

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