【第6回】間室道子の本棚 『ロンリネス』 桐野 夏生/光文社

~代官山 蔦屋書店文学コンシェルジュが、とっておきの一冊をご紹介します~


「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
 
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『ロンリネス』
桐野 夏生/光文社
 
 
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ママ友カーストを描いて話題になった『ハピネス』の続編です。

『ハピネス』はどういうお話だったかというと、舞台は湾岸のタワーマンション。
主人公の有紗は若きママ友グループに入っており、メンバーは元CAで地位もお金もあるリーダー格のママと、彼女と同じような二人のセレブママ、そしてマンションの住人ではないけれど美貌と気風の良さから皆に一目置かれて仲間になっているママ、そして有紗の5人。
表面上は仲がいいけれど、マンション組には「ふたつあるうちのどっちの棟か」に始まり、「分譲か賃貸か」「高層階ならどの方角を向いた部屋か」で格差があり、賃貸で格下の棟に住む有紗は生活すべてにおいて自信がありません。

そんな彼女はある日メンバーのひとりから不倫を打ち明けられます。
ほかの誰でもなく、この自分が相談役に選ばれたといううれしさと、秘密の息苦しさ。
混乱する有紗でしたが、他のママ友たちにも小さな内緒やウソはあり、中でもいちばん仰天に値する秘密を抱えているのは当の有紗で・・・・・・。

そんな『ハピネス』から時がたち、「水に流したはずなのに、どこかで引っかかって流れを堰き止めている。どころか、逆流しかねなかった」という文章が表すとおり、それぞれの結末を迎えたはずの登場人物たちの関係は第二段階に入って炎上中。
『ハピネス』では「言わなかったこと」「裏切られていたこと」があらわになりましたが、『ロンリネス』では前作で負った互いの傷をめぐり、復讐を企てる者あり、情熱的なかたくなさが災いする者あり、あっちもこっちも立てようとして板挟みに苦しむ者あり。「ドロドロした話は嫌」と思うかもしれませんが、作者・桐野夏生さんは、どの人物にも容赦なくナタをふるい、ダメさ加減を暴くことで、読み手に不思議な爽快さを与えてくれます。

そしておそらく本が終わっても、読者には有紗とある男について「これはアブナイ」という気持ちがぬぐえないと思います。彼の言うことだけを信じていいのか、全部都合のいいつくりごとではないのか、彼は同じゲームを先々で繰り返しているのではないかと。そこで待たれる第三弾!男と女、家族の関係は、「幸せ」から「孤独」へ、次はどこへ?
 
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代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室  道 子
 
【プロフィール】
雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『婦人画報』、『Precious』、朝日新聞デジタル「ほんやのほん」などに連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『タイニーストーリーズ』(山田詠美/文春文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫)などがある。

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