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二子玉川 蔦屋家電

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【イベントレポート】谷尻誠「誰もが反対することこそがチャンス」。『CHANGE-未来を変える、これからの働き方-』刊行記念

自分たちの事務所に併設されている食堂を、社員だけではなく、"誰でも"利用できる「社食堂」にしたり、アパレルショップから営業時間の概念をなくした「hotel koe tokyo」など、建築の“当たり前”を打ち破り、新たなチャレンジを次々と仕掛ける建築家・谷尻誠さんのトークショーが、2019年9月4日、二子玉川 蔦屋家電で開催された。

谷尻さんが、仕事のない時代からどうやって道を切り拓き、何を考え、どう行動してきたか。先が見えない時代を生き抜く働き方のヒントを語った。
 
 

「やらなければならない」状況に自らを追い込む
 
 
 

谷尻誠さん(以下、谷尻):今日、『CHANGE-未来を変える、これからの働き方-』(エクスナレッジ 刊)の重版が決まりました。販売部数1万部です。

インタビュアー・猪飼尚司さん(以下、猪飼):本日は、本の周辺の話をお聞きしていきたいと思います。谷尻さんはイベント運営や事務所の中に飲食店をつくったりと、設計・デザイン以外の仕事もかなりやっています。ご自身の職業は何かと問われたら、何と答えますか?

谷尻:わざと“建築家”と言いますね(笑)。建築家だけどいろいろとやっているということで、建築家としての職能が拡張されるんです。

猪飼:谷尻さんは仕事をするとき、どのような順番で物事を考えますか? 仕事にとりかかる入口には、「やりたいこと」「やるべきこと」「できること」というものがあると思っているのですが。

谷尻:僕の場合は、「やりたい」ではなく、「やらなければならない」モードに自分をセッティングします。やるために、どういう場所で、どうしたらできるか。できる方向でしか考えない。「社食堂」をつくったときも、まず物件を見つけてきて借りました。借りると決めたら、やらなければならなくなる。そうなったら後戻りはできません。やれない選択肢をなくしていき、自分を追い込んでいくと、何が必要かわかってきます。あとはみんなで全力でやるだけです。
 
猪飼:設計は委託されて請け負うものであることが多いですが、谷尻さんは、あえて難しい、通常はやらなそうな案件を手がけていますよね。

谷尻:「オイシイな」と思っちゃうんです。もちろん、周辺に飲食店がない環境で「社食堂」が成り立つのか、オフィスの中にあって匂いや雑音で仕事に集中できないのではないか、守秘義務が……等のネガティブな意見が出ました。僕が思ったのは、「これはまだ世の中でしていないことなんだ」ってこと。うまくできたら絶対パイオニアになれるじゃん、と。逆方向に考えたんです。

猪飼:誰も通ったことのない場所を歩くということになりますが、失敗はあるんですか?

谷尻:だいたい事件が起きます。働く予定の子が来なかったり、やったことないことだらけだから、スタッフと意思の疎通ができなかったり。

猪飼:プロジェクトを途中でやめようと思ったことも?

谷尻:一度は形にしてみますね。失敗するということは、何が原因で失敗したかが明確になっているということ。だから解決しやすいんです。やらずに予測ばかりしていては、解決できない。
 
 
 

アイデアを可視化して“抜きん出る”ためには

猪飼:谷尻さんのそういう考え方は、性格によるものですか? それとも、仕事を通じて得られた価値観ですか?
 
 

谷尻誠さん
 

谷尻:性格でしょうか。“考える”ことは誰でも持っている能力なのに、ある人は評価されて、ある人は評価されないといったふうに、可視化されるもので大きく差が出る。
僕は、勉強のできる/できないについては諦めているんですが、考えることだったら誰にも負けないと思えた。抜きん出る人というのは、誰でも持っているはずのアイデアをいち早く形にして進んでいく人です。

猪飼:学校の試験などは大勢が同じお題を出されて評価が付いていくけれど、考えることには比較対象がない。考えて行動してみることで、他の人からの反応が起こっていく。

谷尻:行動することで反応が見えるようになるので、それを見ながら、考えの方向性を調整していく。

猪飼:建築用語って難しくて、言葉を聞いても、僕は駆け出しのころは意味やイメージを理解できないことが多くありました。

谷尻:僕が建築家になった当初、僕から見ても建築家は難しいことを言う人だと思っていました。難しいことには誰も共感したり寄ってきたりしない。社会性をもって仕事をするべきポジションなのに、社会性を感じなかったんですね。一方で安藤忠雄さんは、建物の話よりも生き様の話をしていますが、世の中の人は安藤さんが建築家だと知っている。
この違いは、建築家が建築の話をしているかどうかです。ごはんを食べたり、絵を鑑賞したり、本を買ったりする、そんな生活のなかに建築というものはある。いきなり建築の話からされるよりも、安藤さんのように日常から建築を語られた方が、絶対に社会に浸透するはずです。

猪飼:安藤さんは、最初はボクシングの話をされるんですよね。自分がどう生きてきたか、信頼している方は誰かと。“人間”を見ている。谷尻さんのネットワークもすごいですよね。どんどん人間がつながっています。
 
 

猪飼尚司さん
 

谷尻:僕は人に会いに行くんです。人が好きだから。2008年に東京に事務所を構えた当初は、東京に知っている人が誰もいなくて、ごはんに誘われたら全部行くようにしていたんです。飲み会も途中で帰ったことがなかったですね。それが礼儀だと思っていました。友達とごはんを食べに行っては誰かを紹介してもらうといったことを何年か繰り返していたら、いろんな人と出会えました。

そうして話を聞いたりした経験を、僕だけのものにするのはもったいない。だから、スタッフにも共有します。そうすることで、会社も成長します。
 
 

時代の変化とともに、働き方はどう変わっていく?

猪飼:谷尻さんは、カメラでARを起動させて雑誌等にかざすことで、メーカー、スペック、連絡先などが瞬時に分かる仕組みを開発されていますよね。

谷尻:雑誌などで気になる情報を見つけて検索するけれど、いまいち欲しい情報にたどり着かないことってありますよね。スタッフもみんな、デスクの横に建築雑誌を積み上げて、そこに掲載されている材質などを検索して調べていた。欲しい情報を手に入れるまでに、雑誌を見て、検索し、メールソフトを立ち上げたりして、どんどん時間が過ぎていく。図面を描いたり、考えたりするのが仕事なのに。本来やるべきことをやれていない会社になっているんだって思いました。これは世の中のあらゆる会社で起きていること。時間を短縮できたほうが良い社会になると思って開発したんです。
 
猪飼:打ち合わせをしたりしていても、結論に至らない検索合戦になって、そもそもの議題から外れていくこと、ありますね。谷尻さんの意図は、時間の短縮の代わりにクリエーションに時間を割こうということですね。

谷尻: “AR三兄弟”と呼ばれる川田十夢さんに連絡をして、考えを伝え、エンジニアを紹介してほしいと言いました。そうしたら、「可能性を感じるから俺がつくるよ」って言ってくれて。こうして会社をつくることにしました。

猪飼:谷尻さんは起業家の側面もお持ちですが、建築家って儲かるんですか?

谷尻:間違いなく儲かりません(笑)。5年前までは、僕は会社の売上を把握していなかったんです。でも、ある時に税務署の職員が来られて、会社の売上が上がっているということを知って。そこからはビジネスもクリエイティブに考えるモードに切り替えました。そうしないと今までの設計事務所と同じになってしまう。若い子は給料が少なく、結婚して子どもを育てることもできない。変わらないといけないから、会社のためにお金の使い方を考えようと。

猪飼:上の世代では、安定したひとつの会社に一生働き続けるのが良いという考えが一般的だったと思うのですが、今は多様化している。どういう働き方、生き方をするかを考えていかなければいけない時代ですよね。こうした世の中の働き方と谷尻さん達の事務所の働き方はリンクしていますか?

谷尻:世の中は昔に戻っていくのかな、という感じがします。同居の時代です。昔は、玄関の土間で商売をやり、その奥で家事をしている風景が見られました。生活と働く場所が一緒だった。でも、それだと効率化できないから、別々の場所がつくられて。
住む場所がファーストプレイス、働く場所がセカンドプレイス、そのどちらでもない落ち着ける場所がサードプレイスと呼ばれていますが、これからは再びこれらが元に戻り、同居していくのかなと。
働き方が変わると働く場所も変わります。オフィスの設計の依頼で、部署間の連携がなくてバラバラだから混じり合わせてアイデアが出るような環境にしたいと、みんな口をそろえて言います。
一周回って昔に戻すようなことをしたほうが、絶対に新しくなるし、化学反応が起きる機会も増える。だから、僕達はわざと事務所に食堂をつくり、本来混ざらないものを混ぜて、意図的に“カオス”をつくることにしたんです。
 

仕事を効率化するための仕事を先にしておく
 
谷尻:プレゼンで僕は地道に模型をつくるけど、コンピューター世代の子たちは数時間ですごいCGをつくってしまうんですよ。頑張る=汗水をたらすことだと思っていたおっさん世代とは差を感じるけれど、夢を追うことに対しては共通してもっていてほしいと思う。それに、やっぱり体験しないとわからないこともあるから、スタッフをライブやサウナに連れて行ったりします。
 
猪飼::いま、サウナを語る人が増えていますよね。
 
谷尻:広島に事務所を移転するためにビルをリノベーションして、レストラン、ギャラリー、事務所、ホテル、それからサウナとお酒を飲める場所をつくろうと思ったんです。
で、「サウナって要るんですか」と批判を浴びて。だからプロサウナーの、ととのえ親方を呼んでトークショーを開き、「サウナに入るのは有名なアーティストとカラオケに行くようなもの」という話をしてもらい、「入りたい!」というムードをつくって夜中にととのえてもらったところ、次の日からスタッフの意見が「サウナ、要りますね」にガラッと変わりました(笑)。
 
猪飼:新しい事務所はホテルなんですよね。

谷尻: “泊まりたい”という要素をつくる方が大事。ホテルだけで本場と勝負しようとすると負けてしまいますから、街ぐるみのホテルをつくろうとしています。建物やごはん処、ショッピングスポットなどを紹介する詳細なガイド「サポーズ広島案内」をつくり、広島の街を歩いてもらい、満足度を上げるんです。

「広島でオススメの場所は?」って聞かれて都度調べるより効率的だし、相手が喜ぶことにも繋がります。それに、これをやっておくと、みんなが広島のことを僕に聞くようになり、仕事を頼まれる包囲網になる。

これからのオフィスのあるべき姿を提示した「社食堂」もそうです。「僕だったらこういうところに行きたい」を先につくれば、同じ主旨のものをつくりたいという人がやってくるようになります。仕事を効率化させるために先に仕事をするということです。

お金を出す人に依頼されたものを形にするのが一般的な仕事の流れ。建築家は空間を施主に渡したらいなくなる職業ですが、僕らは自らリスクを負って運営をし、失敗・成功事例を分かった上で設計すると伝えるから、信頼につながっていると思います。

猪飼:建築家など職業に従事する人間である前に、自分がどうなのか、ということですね。

谷尻:今でこそ考えをまとめられるようになりましたが、昔は何からやったらいいかわからなかったし、悩んでいた時期もありました。未だに悩んでいる人たちの気持ちはよく分かります。
社会で活躍している人は全体の2割。
8割は悩んでいるんです。
でも、その8割が活躍したほうが社会は良くなる。考え方ひとつで変われるということを、『CHANGE-未来を変える、これからの働き方-』で気付くきっかけにしていただればいいなと思います。
 
 
 


【プロフィール】
谷尻 誠(たにじり・まこと)建築家/起業家

1974年広島県生まれ。SUPPOSE DESIGN OFFICE Co.,Ltd. 代表取締役。大阪芸術大学准教授、広島女学院大学客員教授、穴吹デザイン専門学校特任教授。共同代表の吉田愛とともに、都市計画・建築・インテリア・プロダクトに関する企画、設計、監理、コンサルティングなどを行う傍ら、社食堂やBIRD BATH&KIOSKを開業、絶景不動産、21世紀工務店、未来創作所、tecture、Bypass などを起業する。2018年FRAMEから作品集出版。著書に『1000%の建築』(エクスナレッジ)、『談談妄想』(ハースト婦人画報社)がある。
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