二子玉川 蔦屋家電

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【イベントレポート】バルミューダ社長・寺尾玄が“倒産寸前”を逆転した原動力とは。『バルミューダ 熱狂を生む反常識の哲学』刊行記念

 
“そよ風”のような気持ちの良い自然な風を実現した扇風機「The GreenFan」、“感動のトースト”が焼けるスチーム技術を使ったトースター「BALMUDA The Toaster」などの大ヒット製品を生んだ「バルミューダ」。顧客から“熱狂的”な愛され方をしている理由は、寺尾玄社長の「反常識の哲学」にある。

彼の18個の哲学をまとめた新刊『バルミューダ 熱狂を生む反常識の哲学』(日経BP 刊)発売を記念し、2019年8月30日、二子玉川 蔦屋家電でバルミューダ代表取締役社長・寺尾玄さんと、著者・上岡隆さんによるトークイベントが行われた。

バルミューダ製品誕生の裏側、「『売れない』を覆す力」と、人生や仕事を大きく変えるヒントが詰まった本書の取材時のこぼれ話などが展開された。
 
 
 

自分は「探す」ものではなく「試す」もの
 
 

寺尾玄社長(右)、上岡隆さん(左)
 

上岡隆さん(以下、上岡):今日は本書で触れていないこともお聞きしたいと思っています。この本は「可能性」「常識」「夢」「失敗」「決断」などの18のテーマを掲げています。取材中も寺尾さんからたくさんの名言が出てきました。

寺尾玄さん(以下、寺尾):この本のためにわざわざ考えたのではなく、普段からこういうことしか考えていないです。

ビジネスって、結局は人間関係なんですよね。他人を動かすということです。見知らぬ人の行動を変える、こんな失礼で生意気なことをするにあたって、一体どうすればいいのか。お願いしてもやってくれない。喜ばせないといけないんです。ここ数十年、会社を運営する中で、それをずっと感じて、考え続けています。

そして、おそらく人間関係で一番難しいのが、自分自身との関係。ここがベースになって初めて、他の人と話ができたり、自分の立ち位置が決まったりする。

取材中、上岡さんが「好きな仕事ができていない、やらされ感をもって仕事をしている若手ビジネスパーソンがたくさんいる」とおっしゃっていたんですが、私は理解できないんです。本当に考えて、やりたくないと思ったらやめたらいい。すべきことは、自分のことを真剣に考えることでしょう。それぞれの人生の中で最も重要な人物は、自分。なのに、自分というものから一番目を背けているんです。 「自分探し」という言葉があるでしょう。私は正直、甘えた言葉だと思います。どんなに探したって、自分はここにいるんだから。探すものではなく、試すべきものではないですか?

上岡:本書のテーマのひとつ「楽」(P189)で、寺尾さんは「自分探し」ではなく「自分試し」をする、とおっしゃっていますね。

寺尾:「楽しい時はラクじゃなくて、ラクな時は楽しくない」と本で言いましたが、私は今でもそう思っています。「楽しい」と「ラク」は同じ字ですが、現象としてはまったく逆。そのバランスの取り方は人それぞれです。私は「楽しい」に振り切っているんです。だから、わりとハードな人生になっているんですが(笑)。
 
 

毎日“興奮”をしているという寺尾社長。「何もなく毎日が過ぎるのが許せないんです。人生を楽しみ抜きたい」
 

一度できてしまったら、次にまた新しいことをやりたくなる。だから、通常はトースターがヒットしたら4枚焼きやデザイン変更などをして、トースターの横展開をするのですが、バルミューダはトースターの後に炊飯器、電子レンジ、デスクライトなどを世に出しました。日々、自分の中では新しい案件が発生していますね。

自分は探すものではなく、試すもの、そして使えるもの、なんです。考えてみてください。蟻一匹だって、自分の好きにすることはできない。それは神に近い行為です。でも、自分自身という人間一人は好きにできるんです。万能の神になれるんです。どうせ人間は死んでしまう。だから、死ぬまでに自分自身を使って、最高に楽しむべきと考えています。

ただ、この主義に基づいて生きるにあたって、私は非常に苦労したんです。困難にぶち当たったし、みんなに嫌われたこともある。大失敗や、悲しいこともたくさんあった。自分の主義を貫きつつ、みんなに信頼してもらうにはどうしたらいいか、ということを山ほど考えてきた。上岡さんは先ほど、私から名言が出たと言ってくださいましたが、考え抜いたからこそ、私には言葉があるし、考えがあるのだと思います。
 
 
 

倒産寸前、「気持ちの強さ」が起死回生を生んだ

上岡:自分を試すためには、自分を知ることが必要だし、使えることを理解しないといけない。テーマ「コア」(P110)で「変化に適応するために自分の“コア”を知る」とおっしゃっていますが、寺尾さんは、ご自身をどう見つめているんですか?

寺尾:私の「コア」は「明るい動物」だということですかね。人間は全員動物なわけですが、自分の個体として、明るくて元気であると。また、知性と野生というものは人間はどちらも持ち合わせているものですが、私は野生の割合がすごく高いと思うんです。多くの人はハーフ&ハーフ、もしくは知性の割合が高めだと思うのですが。

私は、野生の割合が高いために多くの苦労をしてきました。野生というものを一番シンプルに使うと、それは暴力なんです。例えば、相対する人がいるとします。考えが一致しないからといっても、もちろん暴力は使いません。でも心の中で燃え上がるものがある。この燃え上がるものを解消するために何をしたらいいのか。そう考え続けて知性が鍛えられてきました。

上岡:寺尾さんと話していると、すごく情熱的なパワーが伝わってくるんですが、一方で論理的なんです。根本から「なぜ?」をとことん考えていて。感情的な人はロジックが弱い、論理的な人は感情が少ない、ということが多かったりしますが、寺尾さんはそうじゃない。

寺尾:根本は野生的なんですけれどね。野生を、どうにか昇華しようとしてロジックに持っていく方法を考えるんです。それは気持ちの強さですよね。2009年に会社が倒産しそうになったんです。当時は私を含めて社員は3人、年商4500万円、決算が1400万円の赤字で借金が3000万円。そして、注文は1カ月間で1件もこない……。「潰れる」と思いました。でも、同時に「潰れるのは断る!」って思ったんです。「リーマンショックとか、世界的不景気とか知らんけど、そんなもののために自分の夢が潰えるのは嫌だ」と。

必死に突破口を探して、考え抜いて、扇風機「The GreenFan」という起死回生の商品を出すことができました。最初に強い気持ちがないと、物事は進められません。
 


「The GreenFan」
 

上岡:人生には壁がいくつもあります。でも、諦めたり、妥協するのはもったいないということですね。

寺尾:そう。そして、それは逆に気持ちが弱いとも取れる。そもそも、そんなに欲していないんじゃないかと。何をしたいかによります。楽に生きたいなら、チャレンジなんかやめたほうがいい。絶対に。自分は何が欲しいのかを考えるべき。ほかでもない、自分のことなんだから必死に考える。仮説が立つまではつらくても、考えることをやめないことです。

自分に自信がないという人は、なぜ自信がないのか、何ができたら自信が持てるのかと考えるんです。書いてみて、その中から興味深くて現実的なものをどうやったらできるのかを考えてみてください。

みんな、なぜ自分が嫌な気持ちなのか、嬉しいのか、考えなさすぎるんじゃないかと思います。

上岡:漠然と不安になっているんですね。

寺尾:そうなんでしょうね。一方で会社を経営していると、リスクマネジメントを科学的に解剖していく必要がある。

上岡:仕事だと考えるけど、自分ごとになると難しくなる。

寺尾:自分が嫌なことって、したくないんですよね。自分自身のことを“なぜ、なぜ、なぜ……”と考えていくことはつらいこと。でもそれも慣れるんです。
 
 

高校2年生の時に学校を中退した寺尾社長は、上岡さんの「今の中高生にひと言」という質問に「好きに生きろ」と回答。「“好き”には責任が伴う。だから勉強をして選択の幅を広げてほしい。自分の人生に責任を持てるように」
 
 

“言葉の力”が会社の力、クリエーションを高める

上岡:本の中では6人の社員の方にもインタビューをしました。みなさん、とてもポジティブな良い話をされているのが印象的でした。

寺尾:社員とは、一人ひとり結構コミュニケーションを取っていますね。

上岡:それは社員の方にインタビューしていても伝わってきました。寺尾さんは、謝るべきところで謝っていたり、指示が明快だったりする。だから、すごくやりやすいのでしょうね。

寺尾:指示は“的確”ではなく“明快”に。その指示が“的確”かどうかは後からしか分からないけれど、“明快”であることはその瞬間に分かる。短い言葉や文章で、いかに正確に伝えるかです。頭を使うから、すごく疲れます。

上岡:社員の方々も、自分の考えをしっかり準備してから会議などに挑みます。寺尾さんと話すのは真剣勝負。

寺尾:言葉を上手に扱える社員が増えれば増えるほど、会社の力は上がるんです。商品の魅力をつくり出す、それを伝える、すべて言葉です。

デザインというものは概念なんです。「BALMUDA The Toaster」のデザインも、「モダン」「クラシック」「ラブリー」という言葉から絵づくりが始まりました。私がデザイン案を見る、「全然ラブリーじゃない」と返す、というのを繰り返して鍛えられていく。

デザイナーは5、6人関わったのですが、「ラブリーとは何か」ということを相談するなと言いました。それぞれの中に「ラブリー」があるだろうと。言葉を絵画にする力。それがクリエーションには必要です。
 
 
 

“うれしさ”しか売れない

上岡:ほかにも、いくつかの質問を。バルミューダ製品の、寺尾さんご自身の「オススメの使い方」は?

寺尾:「BALMUDA The Toaster」なら、WEBサイトにかなりの数のレシピを掲載しています。そのほとんどに私が関わっています。レシピができたら必ず味見をします。塩ひとつまみ単位まで調整しますね。本気です。これいいね、とならなければ落とします。

上岡:オススメのレシピはありますか?

寺尾:「チーズ&チップス」ですね。ポテトチップスを耐熱容器に並べて焼くだけ。普通のトースターで焼くと真っ黒焦げになるんだけど……あとはレシピページを見てください。

https://www.balmuda.com/jp/toaster/recipes/060

小さいころに母につくってもらっていたおやつなんです。簡単だし最高のおやつ。私の子どもたちも食べ始めたら止まらないくらい。
 
 

「BALMUDA The Toaster」
 
 
上岡:せっかくの機会なので、参加者の方で、寺尾さんに質問がある人はいませんか?
 
参加者1はい。寺尾さんに影響を与えたビジネス書はありますか?

寺尾:ビジネス書はほとんど読んだことがないんです。でも、ドラッカーの『マネジメント』は読むべきですね。10年前だったかな、「The GreenFan」をつくる前。当時は内容がまったく分かりませんでした。でも、今読むと全部そのとおりだな、と。分からなくてもいいから、年1度は読んで今の状況とすり合わせています。あと、私は小説をたくさん読みます。オススメは司馬遼太郎の『坂の上の雲』。社員にも言っていますが、この本の良さは保証するので、ぜひ私を信じてみなさんに読んで欲しいです。
 
 
参加者2バルミューダのものづくりで大事にしていることは?

寺尾:“あなたの●●にこのように役立ちます”というのが、人がものを買う唯一の理由。多くの人が、かっこよく見られるために服を買うように。

コミュニケーションを、いかに“うれしい”にリンクさせるかが大事です。「BALMUDA The Toaster」のコミュニケーションのとき、“おいしい”は”うれしい”なのかな、ということを考えました。これはストレートにイコールではない。高級レストランで仕事の接待で食べる料理と、お腹がすいている時に息子とロードサイドのチェーン店で食べる牛丼、自分にとっての星付きはどちらかといえば、後者です。おいしさは前者だけど、“うれしさ”は、誰と、どんな時に、も含まれているもの。結局は、“うれしさ”しか売れないんだと思います。
 
 


【プロフィール】
寺尾 玄(てらお・げん)バルミューダ株式会社 代表取締役社長
1973年生まれ。17歳の時、高校を中退。スペイン、イタリア、モロッコなど、地中海沿いを巡り放浪の旅をする。帰国後、音楽活動を開始。大手レーベルとの契約、またその破棄などの経験を経て、バンド活動に専念。2001年、バンド解散後、ものづくりの道を志す。独学と工場への飛び込みにより、設計、製造を習得。2003年、有限会社バルミューダデザイン設立(2011年4月、バルミューダ株式会社へ社名変更)。著書『行こう、どこにもなかった方法で』(新潮社)

上岡 隆(かみおか・たかし)
編集者 1998年日経BPに入社。「日経パソコン」で約10年、OSやハードウエア、ウェブサービスなどのトレンド記事、技術解説記事、使いこなし記事を中心に執筆。その後、「日経ビジネスアソシエ」に異動。そこでも約10年、数多くの経営者・専門家に取材し、人生哲学や仕事術などの記事をまとめた。現在はクロスメディア編集部にてビジネス書などの記事をまとめた。現在はクロスメディア編集部にてビジネス書などの編集を担当。

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