【ARTIST NEWS】ソー・ソウエンによる個展「Let us see what you see.」を開催。他者との関係の中で自己の存在の確立を試みる。
本展では、Sohがこれまで制作してきたポートレート作品《tie》を発展させた新シリーズが展開される。
《tie》シリーズは、親しい友人の証明写真をピクセル状の色面で大きなキャンバスに描いたポートレート作品である。特定の感情を表出しないよう、ニュートラルな表情を保つことが要求される証明写真は、社会的な空間において個人を管理するためのもの。証明写真をモチーフとして採用することで、個々のポートレートの外側に、近代社会における個人の管理、あるいは監視のシステムと権力の関係性といった問題が浮上するだろう。同時に、普段なら楽しく会話をする親しい友人たちの知らない一面が記録された30×40mmの小さな写真に、「あなたは誰なのか?」「あなたらしさはどこからくるものか?」という問いを投げかけずにはいられないのではないか。親しい友人たちによって無意識的に作り出された不思議な表情を、「私の知っているはずのあなたは誰なのか」という問いによって、多数の細胞まで分解し、ひとつひとつ確かめるように、その輪郭を優しく撫でるように、ピクセル状の色面で再構成することでプライベートな空間とパブリックな空間の接する境界線としての顔に変化させるのだ。もちろん、例え《tie》で描かれるモデルがソー・ソウエンの知人や友人だとしても、鑑賞する私たちにとっては距離のある他人であることに変わりない。私たちは知らない人物に対峙するとき、そこで見るのは、私たちの潜在的意識と思考によって身勝手に解釈された人物像である。そこにはある種、暴力的にイメージを作りだしてしまう可能性を秘めていた。
今回、新たに制作されたポートレートたちは《tie》のコンセプトを念頭に、描く対象のイメージを変化させている。モチーフとなるのは、Googleの画像検索フォームを使用して、「証明写真」という言葉を英語、中国語、ヒンデゥー語、スペイン語、フランス語…と2023年に世界で話されている言語ランキングの上位の言語に翻訳して検索し、ヒットした画像から選択している。知らない人物を描くことで、モデルに対する距離感がソー・ソウエンと鑑賞者とでフラットになり、鑑賞者と同じ視点で「あなたは誰なのか」という問いを画面に投げかけることができるようになった。同時に各言語での画像検索では、その言語が使用される地域の模範的な人物像や、ジェンダー、ルッキズム、などがさまざまなに絡み合い、立ち現れる。作品として描かれた見ず知らずの人物に「あなたは誰なのか」と投げかけるとき、それは同時に鑑賞者自身の意識の底にある潜在的な思考たちに光をあて、自分自身に「あなたは一体何を見たのか?」と問いかけていることに気が付くだろう。小さな四角い色面をひとつひとつ目で追っていきながら、自分自身を分解し輪郭を感じることで、私たちは私たち自身の身体を取り戻していくのだ。
鈴木萌夏(現代美術史研究家、東京藝術大学博士課程)
〈プロフィール〉
鈴木萌夏
1996年東京生まれ。女子美術大学大学院アートプロデュース表現領域修了。現在は、東京藝術大学大学院先端芸術表現科博士後期課程在籍。レントゲン藝術研究所を中心とした1990年代の現代美術史の調査と研究、展覧会企画、執筆活動などを並行して行う。https://researchmap.jp/moekasuzuki
2019年 京都精華大学芸術学部造形学科洋画コース卒業
2023年 「絶えず壊れてきたし、壊れ続けている(壊れてはいない)」/ rin art association(群馬)
2023年 「Your Body is the Shoreline」 √K Contemporary(東京)
2022年 「Let it sway, like a ripple of agitation. さざなみのように、ゆらいでみる」/ HIRO OKAMOTO(東京)
2022年 「Al Borde」/ Taller Sangfer(Oaxaca, Mexico)
2022年 「Why do I have two hands, eyes, and nipples on my both sides? どうして私の手は、目は、乳首は二つあるの?/ GALLERY SOAP(福岡)
2020年 「ささやかな叫び」 / The Mass(東京)
2023年 「京都精華大学 55周年記念展 FATHOM - 塩田千春、金沢寿美、ソー・ソウエン」/京都精華大学ギャラリーTera-S(京都)
2023年 「バベル派vol.1」大阪市芸術創造館(大阪)
2022年 「(あなた以外の全てが見える)」/ 銀座 蔦屋書店ATRIUM(東京)
2022年 「Anamorphosis」/ Fir Gallery(北京)
2022年 「第17回福岡アジア美術館アーティスト・イン・レジデンス成果展 境界を縁取る」/ Artist Café Fukoka, 福岡アジア美術館(福岡)
2019年 「dwell」/ 室町シュトラッセ(福岡)
2019年 「FLOWERFUDDLE」/ PHILLIPS TOKYO(東京)
2023年 「エグササイズ」/ 科学技術館エントランス(東京)
2023年 「動くたびに」(内藤アガーテとの共作)/メゾンエルメスフォーラム(東京)
2023年 「The Egg」/福岡市美術館(福岡)
2023年 「The Egg」/√K Contemporary(東京)
2023年 「エグササイズ」/ √K Contemporary(東京)
2023年 「エグササイズ」/京都精華大学ギャラリーTera-S(京都)
2022年 「The Egg」/ Taller Sangfer(Oaxaca, Mexico)
2022年 「The Egg」/HIRO OKAMOTO(東京)
2022年 「Bellybutton and Breathing −お臍と呼吸」/ 福岡アジア美術館あじびホール(福岡)
2022年 「エグササイズ」/ 福岡アジア美術館エントランス(福岡)
2021年 「We will sea (Performance with Sara Milio)」/ 虚屯(福岡)
2022年 「Artists’ Fair Kyoto 2022」優秀賞
時間:11:00~19:00 ※最終日は18時までとなります。
定休日:月曜日
入場:無料
主催:銀座 蔦屋書店
お問い合わせ:03-3575-7755(営業時間内) / info.ginza@ccc.co.jp
展示作品は、会場にて1月27日(土)11時より販売します。
※作品はプレセールスの状況により、会期開始前に販売が終了することがあります。