【展覧会】粂原愛 個展「誰が袖を見遣る」

アート|FOAM CONTEMPORARY
FOAM CONTEMPORARY 2026年05月02日(土) - 05月20日(水)
粂原愛 個展「誰が袖を見遣る」を5月2日(土)より開催。自作の展示を「借景」として据え、卓越した工芸作品とともに会場を構成

粂原愛 個展「誰が袖を見遣る」を、5月2日(土)より5月20日(水)の期間、店内アートスペースFOAM CONTEMPORARYにて開催します。
 
粂原愛は、2015年に多摩美術大学大学院(日本画)を修了後、国内外での滞在制作を重ね、現在は長野を拠点に活動しています。透過性の高い絵具で下図を描き、その上に和紙を幾重にも重ね、さらに岩絵具で彩色する日本画の技法に、粂原独自の感性を重ねた表現が特徴です。層が折り重なる画面には、光や空気の気配が宿り、静かな奥行きをまとった像として立ち上がります。
これまで粂原は、庭や自然保護区、里山といった自然環境を取材しながら、自然と人工のあいだに潜む「境界」の感触を手がかりに制作を続けてきました。本展では、粂原の絵画を空間の「借景」として捉え、傑出した工芸作品とあわせて展示構成を行います。
展覧会タイトル「誰が袖を見遣る」は、梅の香りに主の面影を重ねた『古今和歌集』の歌に着想を得ています。姿は見えずとも、漂う香気が「かつてそこにいた誰か」を示すように、気配のあり方が作品と空間の体験に重なります。粂原が描く梅の絵は、和紙を重ねることで形をいったん奥へ沈め、霧のような透過性とともに、その「きざし」を静かに浮かび上がらせます。また「見遣(みや)る」とは、目に映るものの先へと意識を向ける意味を持ちます。粂原によって描かれた枝ぶりと、会場に配置された工芸作品が放つ静かな佇まいのなかに気配や痕跡を感じ取るとき、鑑賞者は視覚を超えた感覚へと導かれます。
《こちふかば》 803×1303×35mm、シナベニヤに紙、和紙、膠、顔料、岩絵具
 
[アーティストステートメント]
本展は、梅の絵を「借景」としての背景に据え、同空間に工芸作品を配することで、ギャラリー全体を一つの景色として取り込む試みです。ここでは絵画を「閉じられた平面」ではなく、空間に奥行きを与える「開かれた窓」として機能させています。絵画と同空間に配された工芸作品は、画面の背後に広がる余白を現実の三次空間へと引き出す役割を担います。これにより、絵画の中の虚構と鑑賞者が立つ現実は地続きとなり、無機質なホワイトキューブに深い奥行きが生まれます。同時に、点在する工芸作品は鑑賞者との間に「見えない仕切り」を作り出し、程よい距離感を生み出します。この立体的な構成は、鑑賞者の歩みを自然に制して深い集中を促し、空間全体を単なる視覚的消費の場から、身体性を伴う静かな対話の場へと変容させます。
多彩な素材や技法による工芸作品に対し、私の描く絵画は一貫して岩絵具を用い、モチーフを「梅」に絞っています。私はかねてより、個の営みである「庭」に潜む哲学的な思想に着想を得て制作してきましたが、今回はその概念を展示の軸に据えることで、個々の作品が孤立した点ではなく、一つの生態系として有機的に結びつくよう努めました。ここに配置された工芸作品は、単に「仕切り」として作用するだけではありません。庭の石が雨に濡れて表情を変えるように、背景にある絵画の色彩や光の影響を受け、その場に命を吹き込む代のような存在になると考えています。
これまで絵画を中心に発表を続ける中で、いつか工芸作品とともに空間を構成し、ギャラリーにいながらにして外を歩いているような感覚を創出したいと願ってきました。しかし今回、同空間に配置することさえ恐れ多いような卓越した工芸作品と共演できるとは想像もしておらず、私ひとりの力では到底実現し得なかったことです。本展示にご尽力いただきました関係者の皆様に、心より感謝申し上げます。

粂原愛
 
[アーティストプロフィール]
粂原愛(くめはら・あい) 
略歴
1989年 埼玉県生まれ
2015年 多摩美術大学大学院日本画研究領域 修了

透過度の高い絵の具で下図を制作した後、画面全体に薄い和紙を貼り岩絵の具で彩色するという、日本画の技法と独自の感性が融合したスタイルを特徴とする。主に庭、自然保護区、里山などを取材地とし、各々が意識する自然界の「曖昧な境界」を、絵画のもつ俳諧的な情緒感や詩情性で表現する。

■主な個展
2024年「静寂の聲」(京都 蔦屋書店6Fギャラリー/京都)
2021年「ここちよい へだたりへ」(Artglorieux GALLERY OF TOKYO/東京)
2021年「ここちよい へだたりへ」(ヘルツアートラボ/東京)
2020年「ここちよい へだたりへ」(いつき美術画廊/東京)
2020年「その向こうの気這い」(Funen Art Academy/デンマーク)
2018年「うたかたの庭」(上野の森美術館ギャラリー/東京)
■主なグループ展
2023年 ART TAIPEI(台湾ワールドトレードセンター/台湾)
2023年 「Re vol.2」(biscuit galery/東京)
2022年 ONE ART TAIPEI(シャーウッド台北/台湾)
2022年 「虹の会」(長江洞画廊/岐阜)
2021年 「TECHNICOLOR’S吉野石膏120周年コレクション展」(スペースO/東京)
2021年 「CIRCLE展」(いつき美術画廊/東京)
2019年 「Juleudstiling」(ホルフゴーギャラリー/デンマーク)
2019年 「春待ちの月」(日本橋髙島屋/東京)
■助成
2020年 Scandinavia-Japan Sasakawa Foundation 「国際美術交流による展覧会助成」
2019年 公益財団法人 吉野石膏美術振興財団「若手美術家の在外研修に対する助成」
2017年 公益財団法人 吉野石膏美術振興財団「若手日本画家による展覧会助成」
2014年 一般財団法人神山財団
 
[展覧会によせて]
イリュージョンと現実と(美術評論家  野口玲一)
今回の展示では、粂原愛の梅を描いた絵画を背景にして、素材の異なるいくつかの器が並べられている。
いま粂原の絵画を背景と書いたが、本来ならそれは背景ではない。ここで絵画と工芸は、主従ではなく対等に行き来するものとして設置されているからだ。すなわちステートメントに語られているように、平面絵画の空間的イリュージョンと、立体の持つ現実空間とが接続するように考えられているからである。
粂原の描く梅は、伝統的な梅の描法からは外れており、現実の梅よりも力強く生々しい、視覚的な強さを持っている。花は実物より大きく描かれる。それぞれの花は定型のパターンとしてでなく、個々の形の違いや向いている方向まで克明に捉えられており、私がどの角度から花を眺めているのか、空間的な関係まで把握することができる。しかも画面の中で花をぼかす、あるいは和紙を貼り重ねるといった操作を行うことでメリハリがつき、空間的な奥行きも生まれる。リアルに描かれた花と対比されて映像的な効果を生んでいるのである。
今回の展示のテーマは「誰が袖を見遣る」とされており、これは『古今和歌集』の詠み人知らずの歌「色よりも香こそあはれと思ほゆれ 誰が袖ふれし宿の梅ぞも」から来ているようだ。視覚(色)よりも嗅覚(香)に花の本質を感じ、残り香にそれを触れた人の面影を見ている。粂原の梅にみる過剰なリアルさは、それを強調することで、視覚を逸脱して嗅覚まで刺激しようとしているようである。
いっぽうの立体はどうだろうか。出品の作家についてほぼ生年順にみていくと、六角紫水(1867-1950)は日本近代における漆芸家の草分であり、東京美術学校の教授や芸術院会員を務めた。濱田庄司(1894-1978)は益子で活動した陶芸家で、京都の木工・漆芸家である黒田辰秋(1904-82)とともに民藝運動に参加している。ルーシー・リー(Dame Lucie Rie, 1902-95)は、ウィーン出身で英国に移って活動した陶芸家で、繊細な装飾を得意としている。増村益城(1910-96)は熊本出身の漆芸家で、髹漆の国指定重要無形文化財保持者だった。ハンス・コパー(Hans Coper, 1920-81)はドイツ出身の陶芸家で、ルーシー・リーとの共同制作から陶作を開始している。増田芳徳(1934-2010)は走泥社同人ともなったガラス作家。彼らは素材や表現が異なるばかりか、活動の時期も工芸家としての領域も異なっていることが分かるだろう。
出品が予定されている作品を観ると、前衛的・実験的なオブジェといったものでなく規模も小さめで、花器や茶器などの機能をもつ工芸品であることがわかる。全体として観たときに、突出した魅力を放つのでなく、趣味良くバランスを考えて選び出されたものだろう。それだけに梅の花の生々しさが際立つように思われる。むしろ工芸が背景として後退するかもしれない。会場において映像的なイリュージョンと、素材の現実がどのように交錯するのか、実見する機会を楽しみにしている。
 

[作品販売について]
展示作品は、5月2日(土)11:00より販売開始します。
プレセールスの状況により会期開始前に販売が終了することがあります。
 
 
  • 会期 2026年5月2日(土) - 5月20日(水)
  • レセプション 5月1日(金)18:30~20:00にレセプションを開催します。
    どなた様もご参加いただけます。
  • 時間 11:00~19:00 ※最終日は18:00終了
  • 定休日 月曜日 ※5月4日(月)休廊
  • 場所 FOAM CONTEMPORARY
  • 主催 銀座 蔦屋書店
  • 協力 水戸忠交易
mail

メールマガジンで、イベント·フェア情報をいち早くお届けしています。ぜひご購読ください。

メルマガ登録はこちら

SHARE

一覧に戻る

RELATED EVENT

RELATED ITEMS