【コンシェルジュのコラム】日記をつけること|子育てコンシェルジュ 田村

梅田 蔦屋書店にはそれぞれの分野に特化した知識をもったコンシェルジュや売場担当者がたくさんいます。担当するジャンルについてはもちろん、本のこと、日々のこと、それにも当てはまらない❝まさか❞のことまで、一人ひとりの個性を大切にしながら紡ぐ、コラムのコーナーです。第一回目は子育てコンシェルジュ田村がお送りします。
 
 
 
 日記をつけること
 
なんてことない日から日記をつけはじめた。
元旦や誕生日といった記念すべき日にはじめると、初日がピークであとは日々の出来事のテンションが下がるばかりのように思えて長続きせず、いく度となく挫折をくり返したので、ならばむしろ書くことが無いようなケの日にはじめてみたらいいんじゃないかと思ったのだ。
そんな風にはじめた日記は今のところ続いていて、その日の天気だとか、何を食べただとか、体のどこが痛んだとか、何を読んだとか、とにかく書きたいことを洗いざらい綴っている。
 
 
―― そういえば私もいく度となく人の日記に救われてきた
 
そもそも、なぜ日記をまた(性懲りもなく)つけようと思ったか。
きっかけは4月に東京・下北沢に「日記屋 月日」という日記屋さんをオープンした、ブック・コーディネーターの内沼晋太郎さんがnoteに綴った「いまこそ、日記をつけよう」という記事。
記事を読み終えて、ああ、そういえば私もいく度となく人の日記に救われてきたと思い出した。
武田百合子の「富士日記」、荒木陽子の「愛情生活」、植本一子の「家族最初の日」、最近はくどうれいんの「うたうおばけ」など、挙げはじめるときりがない。
小説や物語が、読んだあとに時間を経てぬるま湯・冷水・熱めの湯で、疲れた体をじわじわと癒し回復させてくれるものだとすれば、日記は読みながらリアルタイムで擦りむいたひざに絆創膏を貼り手当してくれる、そんな感じだ。
 

日記をもとにした書籍たち

二階堂奥歯の「八本脚の蝶」(ポプラ社、文庫版は河出書房新社)は、ネット上でブログとして公開されていた、編集者・二階堂奥歯の日記が書籍化されたもの。
更新が止まったまま今も存在するこのブログは、アクセスするといちばん上に最新の(最後の)投稿が出てきて、あえてそれを読んだあとに読み始めてほしい。
「生まれてから過ごした日数をはるかに超える冊数」の物語を読み、美しいものや自分を幸せにするものを手繰り寄せることが上手な彼女なのにどうして、というのが最初に読んだときの感想だ。
彼女の年齢を追い越してしまった今、正直、通して読み返すのは辛い。
それでも、自分とはリアルタイムではリンクしなかったにしても、同じ日を歩んでいた時間があった事、そして何よりこの本を手にしたこと自体がわたしにとっては救いだと思う。
 
 
 
―― 書きたくないことを書く必要はない。

そして、実際に日記をつける行為をつづけるコツのようなものは、ヤマシタトモコの「違国日記」(祥伝社)から受けている。
両親を交通事故で亡くした主人公の朝が、叔母である小説家の槙生と暮らす日々が描かれている漫画だ。
槙生は朝に日記をつけることを提案し、まだ心の整理がつかずうまく書き始められない朝に対し、「今 書きたいことを描けばいい 書きたくないことは書かなくていい ほんとうのことを書く必要もない」と言ったシーンを大切にしている。
基本的に日記は自分しか見ないものだ。
そこに、苦しくても忘れたくないことならまだしも(それはのちに救いになると信じて書き残す必要があると思う)、書きたくないことを書く必要はない。
 

コンシェルジュの実際の本棚
 
 
 
―― 人はいろんなものがコワいんだな
 
最後に、岡崎京子の「チワワちゃん」のあとがきをご紹介しておきたい。
漫画家の岡崎京子が、短編集「チワワちゃん」(角川書店)のあとがきの中で、「人はいろんなものがコワいんだな(中略)そしてわたしは、いろんなことがコワくなくなるように、これからのマンガを描いたような気がします」という一文があって、はじめて読んで以来、その答え合わせをするように日々を生きている。
年を重ねていくにつれて、彼女のいうところのコワいものがどんどん増えていく。それはたとえば、大切にしたいものが増えていくことと、それらを失うことに対する恐怖だ。
だからこそ、わたしはこの瞬間を日記に綴ろうと思う。
こんな事があったけどいまも生きているな、大丈夫だな。と、過去、今、未来、それぞれの自分が励まし鼓舞しあえるように。

とはいえ、万が一わたしの身に何かあったら人知れず日記を処分してくれと、20年来の幼馴染に家の合いカギを渡し頼んでいるあたり、誰かの人生に作用できることは無さそうだ。
 

PROFILE|子育てコンシェルジュ 田村
4月6日、読む日生まれ。高知県出身。生後半年で実家2階の出窓から車道へ落っこちるもなぜか今なお健在。大阪芸術大学デザイン学科卒業。在学時、スタンダードブックストア あべのにて勤務。そこで北村さん(現 同店文学コンシェルジュ)に出会い書店員を夢見る。その後、他書店にて児童書・実用書を担当し、アルバイトとして梅田 蔦屋書店に入社。現在は児童書・育児書の子育てジャンルを担当。モットーは「本にミーハーであれ」。
 
今回ご紹介した書籍
『富士日記〈上〉』
武田百合子 著 / 中公文庫
『愛情生活』
荒木陽子 著 / 角川文庫
『家族最初の日』
植本一子 著 / ちくま文庫
『うたうおばけ』
くどうれいん 著 / 書肆侃侃房
『八本脚の蝶』
二階堂奥歯 著 / ポプラ社
『違国日記(1)』
ヤマシタトモコ 著 / 祥伝社
『チワワちゃん』
岡崎京子 著 / 角川書店
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