【コンシェルジュのコラム】人間を撮るということ~鬼海弘雄写真集『PERSONA 最終章』|写真コンシェルジュ 濱崎

梅田 蔦屋書店にはそれぞれの分野に特化した知識をもったコンシェルジュや売場担当者がたくさんいます。担当するジャンルについてはもちろん、本のこと、日々のこと、それにも当てはまらない❝まさか❞のことまで、一人ひとりの個性を大切にしながら紡ぐ、コラムのコーナーです。第四回目は写真コンシェルジュ濱崎がお送りします。
 
 
人間を撮るということ~
鬼海弘雄写真集『PERSONA 最終章』
 
写真機が発明されて以来、多くの場合ひとはその被写体となってきました。今でも、観光地で記念写真を撮ったり、スマートフォンで自撮りをしたり、赤ちゃんの誕生を撮ったりと、日常において誰にでも経験はあるかと思います。では、ひとが撮られた写真群を作品集として見た場合、どのように見たら、楽しんだらいいのでしょうか?
 
 
―― 人間の存在の確かさ
ひとを撮った写真集として名高いのは、職業別にひとを類型化しようとしたアウグスト・ザンダーの『20世紀の人々』や、著名人からアメリカ西部の一般市民までを大判カメラで撮影したリチャード・アヴェドンの『PORTRAITS』、主にフリークスたちを真正面から捉えたダイアン・アーバスの『diane arbus』などが挙げられます。これらには、単にひとを撮ったというより、人間の存在の確かさのような強さをみることができます。ほとんどの被写体がまっすぐカメラのレンズを見ており、ひととひとが真正面から向き合う緊張感がほとばしっています。それは見るものにもある種の緊張感を強いることになります。
 

ダイアン・アーバス『diane arbus』
 
日本にもこれらの写真集に匹敵する写真を撮っている写真家がいます。それが鬼海弘雄さんです。愛用のカメラ、ハッセルブラッドを手に、浅草の仲見世で人の行き来をみつつ、これは、と思った人に声をかけ、写真を撮らせてもらう。バックはいつも境内の朱色の壁で統一されており、カメラとフィルムも撮り始めて40年以上変わらない。モデルとなった人に話しかけながら正面からシャッターを切る。こうして撮った写真は、これまで『王たちの肖像』(1987年 矢立出版)や『PERSONA』(2003年 草思社)などにまとめられましたが、これらの集大成として『PERSONA 最終章』(2019年 筑摩書房)が出版されました。
 
 
―― 正面からひとと対峙する面白さと素晴らしさ
被写体となっているのは著名人でなく市井の人たちで、皆一筋縄ではいかない独特のキャラクターのオーラを放っています。人間の存在の確かさを見ることができるという点で、先に挙げた名作写真集にもひけをとりませんが、面白いのは、そこにユーモアやペーソスも感じることができる点です。
 
写真1枚1枚には、タイトルがついています。例えば、「右肩だけが凝るとわらう人」(右肩には猫が乗っている)、「緊張すると、口が動く癖があるという人」(舌が不自然にほんの少し出ている)など。こういったタイトルは、写真の面白さを何倍にも広げてくれます。他にも、「六本木族のはしりだったと語る婦人」など、ひととひととの会話が成立していないと出てこないようなタイトルもあります。撮る方の懐が深くないと、なかなかこうはいきません。市井における哲学を実践した、福田定良を師としていたのもうなずけます。
 
写真は『PERSONA 最終章』より
 
延々とこういった人たちのポートレートが続く写真集ではありますが、ながめているうちに、ふと自分もこの中にいるのではないかと錯覚をおこしてしまうことがあります。また、被写体の人々の着ているものや持ち物が、いちいち変わっていて面白い。なにより、顔そのものが、ひとにはみな語るべき人生が潜んでいることをわからせてくれます。見るものの想像力を膨らませてくれるのです。そこに、この写真集を見る面白さがあります。
 
 
もしかすると、これからの時代はひととひととの密接な付き合いは少なくなっていくのかもしれません。けれども、正面からひとと対峙する面白さと素晴らしさ、そして、人間の存在の確かさそのものは変わらない、ということをこの写真集は教えてくれます。

PROFILE|写真コンシェルジュ 濱崎
文学部美学科を卒業後さまざまな職を経たのち、2001年より大型書店に勤務し芸術書を担当。家族ができたことをきっかけに、写真を撮ることや写真集を見ることに夢中になる。ダイアン・アーバス、ロバート・フランク、植田正治、鬼海弘雄らの写真集に感銘を受け、写真や写真集の魅力を広く知っていただきたいと考え、梅田 蔦屋書店の写真コンシェルジュに。以降は、素晴らしい写真家たちとの出会いや言葉に触れていただくためのトークイベントを50回以上開催しつつ、一方で、書籍はもちろん、写真展示やグッズ、ワークショップ開催などをとおして、写真という面白ワールドへの垣根を低くしていく提案もおこなっている。
写真家としての顔も持ち、2015年には写真集『あと乃あと』(冬青社)を出版。2018年には大阪のgallery176で個展を開催し、同年TAIWAN PHOTOにも参加。現在も、二眼レフや大判などのフィルムカメラをお伴に作品を制作している。
比較的年齢を経てから写真の虜になった経験から、写真の伝道師となるべく日々奮闘中。
 
鬼海弘雄さんの出版物
『PERSONA 最終章』
鬼海弘雄 著 / 筑摩書房
『India 1979-2016』
鬼海弘雄 著 / Crevis
『アナトリア』
鬼海弘雄 著 / Crevis
『東京夢譚―labyrinthos』
鬼海弘雄 著 / 草思社
『ことばを写す 鬼海弘雄対話集』
鬼海弘雄 著 / 平凡社
ご感想はこちらまで:umeda_event@ccc.co.jp
一覧に戻る

STORE LIST

ストアリスト