【本のBATON Vol.20】モノクローム写真集の愉しみ|写真コンシェルジュ 濱崎

  モノクローム写真集の愉しみ

 

アルバムの写真のなかにモノクロ(白黒)写真のある方はいますでしょうか。ある資料によると、こどもの頃の写真でモノクロの写真が残っている最後の年代が1970年前後生まれの方たちだそうです。それ以降に生まれた方のアルバムに貼られている写真は、すべて写真イコールカラー写真ということになります。昔はカラー写真はフイルムやプリント代が高価で退色も激しかったものがその頃から入手しやすい価格で品質も安定してきたという理由もありますが、モノクロ写真は古臭く、カラー写真は新しく現実をありのままに写し出していて<良い>と考えられたため、カラー写真にがらっと切り替わりました。けれども現在でもモノクロームの写真集が毎年いくつか発売されています。なぜでしょうか。その答えやヒントが満載の写真集5冊をご紹介いたします。

 

『RAMA LAMA DING DONG』 山谷 祐介/著   Gallery Yamatani

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いま最も勢いのある写真家のひとりである山谷祐介が、2014年の夏に、妻との日本縦断の新婚旅行を記録した作品。バックパックに着替えとテントを入れ、約1か月もの間北海道から九州までの廻った、若さのなかにグルーヴ感が宿った名作です。光と影の絶妙のバランスがドキュメント性を穿ち、同じモノクロームの傑作でもあるロバート・フランクの『The Americans』や荒木経惟『センチメンタルな旅』も想起させます。

 
『Ehime』Gary johanson/著  T&M Projects
 
ヨーロッパを代表する写真家・ゲリー・ヨハンソンが、70年代と80年代に来日したさい、愛媛県を撮り歩いた写真集です。大判カメラならではの諧調やハーフトーンの美しさが印刷でも見事に表現されており、黒と白のグラデーションのなかにも色が存在するんだと気づかせてくれます。
 
 
『Provoke 復刻版 全三巻』 二手舎
 
フイルム時代のモノクロームの写真は、現像し暗室で印画紙に焼き付ける工程が必要でした。手間はかかりますが、その分すべての工程を自身でコントロールすることが可能で、高温現像してフイルムの粒子を際立たせるなどの個性を出すことができました。1968年に創刊されたこの伝説の写真集は、写真のもつ美しさをラジカルに解体して表現の可能性を大きく拡大させました。『Ehime』とは真逆の、アレて、ブレて、ボケた粒子ぶつぶつの写真のなかに、当時の社会とまだ若い中平卓馬や森山大道らの溢れる挑戦精神が漲っていて、今見てもぶっとんでカッコイイ作品です。
 
 
『PERSONA 最終章』 鬼海弘雄/著 筑摩書房
 
長く浅草の浅草寺で市井の人のポートレイトを撮り続けた鬼海弘雄の集大成ともいえる写真集です。真正面からひとを撮っただけの写真が延々と続くのですが、ひとのもつ顔や身体・服装のもつちからがひとの人生や歴史までも浮き彫りにしています。カラー写真では成立しえない作品群で、何度見ても飽くことがありません。また、写真集を見るさいはぜひ、奥付けの編集者やデザインや印刷がどこの誰なのかも確認すると見る愉しみも広がります。この写真集では、生きた伝説と言ってもいい凄腕の印刷ディレクターが携わっており、紙や印刷の美しさもWEB上ではけっして味わうことのできない魅力のひとつとなっています。
 
 
『あと乃あと』 濱崎崇/著 冬青社
 
僭越ながら拙著の紹介も。
神戸六甲に点在する廃屋を撮り歩いた写真集で、ひとのもつ想像力をほんの少しでも広げてもらえたらと思い、自然とモノクロームの写真集となりました。暗室でのプリント作業は、かつて住んでいた人々の生活や息遣いを感じながら、姿も見えないそのひとたちとゆったりと会話しながら、そんな至福の時間だったことをよく憶えています。50年前のカメラで撮影し、フイルム現像をし、暗室で焼き付けをし、そういったすべての工程をひとつひとつ時間をかけてこなししたからこそ見える世界がありました。
最後に、モノクローム写真の魅力を心に響くことばにしてくれた文章を紹介します。
「眼の前にあるモノを写し変える作意が、写真には満ちみちている。モノクロームはその作意やもしくは意図が、黒と白の間に、しとやかな一条の光を呼び起こし、漆黒の影を紡ぎ出し、見えない世界をおびきだす。」(『モノクローム』石内 都・筑摩書房(絶版)より)
 
 
 
プロフィール:写真コンシェルジュ 濱崎
文学部美学科を卒業後さまざまな職を経たのち、2001年より大型書店に勤務し芸術書を担当。家族ができたことをきっかけに、写真を撮ることや写真集を見ることに夢中になる。ダイアン・アーバス、ロバート・フランク、植田正治、鬼海弘雄らの写真集に感銘を受け、写真や写真集の魅力を広く知っていただきたいと考え、梅田 蔦屋書店の写真コンシェルジュに。以降は、素晴らしい写真家たちとの出会いや言葉に触れていただくためのトークイベントを50回以上開催しつつ、一方で、書籍はもちろん、写真展示やグッズ、ワークショップ開催などをとおして、写真という面白ワールドへの垣根を低くしていく提案もおこなっている。
写真家としての顔も持ち、2015年には写真集『あと乃あと』(冬青社)を出版。2018年には大阪のgallery176で個展を開催し、同年TAIWAN PHOTOにも参加。現在も、二眼レフや大判などのフィルムカメラをお伴に作品を制作している。
比較的年齢を経てから写真の虜になった経験から、写真の伝道師となるべく日々奮闘中。
 
コンシェルジュをもっと知りたい方はこちら:梅田 蔦屋書店のコンシェルジュたち

「本のBATON」は梅田 蔦屋書店コンシェルジュによる書籍・雑貨の紹介リレーです!
20個目のバトンは写真コンシェルジュがお送りしました。
 
 
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