浦和 蔦屋書店の本棚Vol.4『荒潮』 陳楸帆(チェン・チウファン/英名、スタンリー・チェン)
『三体』(リウ・ツーシン)のヒットにより、中国SFが盛り上がっています。『荒潮』はリウ・ツーシンに“近未来SFの頂点”と激賞された本作、だからこそ今読みたいディストピア小説です。
時は2030年代の中国。諸外国から見たマクロ視点と内部の人間が見ているミクロ視点で語られる中国は、豊富な資本の圧倒的経済力を持ち、最先端技術をどんどん取り込んで列強として成長、物語の中でも変わらぬ強大さを誇っています。国同士の対立、過激派環境保全団体との衝突が起こるのも必然なのか・・・。舞台となる中国東南部の半島は、様々なバックグラウンドを持つ人物たちの思惑が交錯、利益を奪い合う戦場になっていきます。
そんな近未来中国では、莫大なお金を生むリサイクル産業を御三家とよばれる人たちが支配しています。そこで働く人たちは汚染された劣悪な労働に従事させられ“ゴミ人”と蔑まれ搾取されてきました。ある時、ゴミ人の少女・ミーミーが虐待されたことがきっかけで、彼女は自在に電子機器を操る新人類へ変貌。彼女を巡って支配者と労働者の闘争の激化することとなります。刻一刻と変化していく物語、その果てに待つのは・・・。
AR眼鏡を介した電子ドラッグ、運動能力を拡張する義体、人工筋肉で稼働するロボット、特定の状況下でのみ攻撃する犬など、現代より数段階アップした技術革新は人間の倫理観も変えてしまいました。ユートピアとは正反対に進化した未来は皮肉に満ちています。異質なガジェットたちは魅力的で、それらが物語に躍動感を与え、ぐっとのめり込み興奮させてくれます。社会に翻弄されてきた人物たちの運命がどう決着するのか、中盤以降の読む手が止まらなくなる一線級のSF作品です。
社会に対する洞察と未来のビジョンを巧みに織り込んだ本作は、説得力と驚きを備えたまさに今読んでもらいたい傑作SFです。
文芸担当:唄