浦和 蔦屋書店の本棚 Vol.1
『三体』劉 慈欣/早川書房
中国の作家、劉慈欣(リウ・ツーシン/りゅう・じきん)の『三体』を紹介します。
本国で累計2100万部、英訳がヒューゴー賞受賞、バラク・オバマ元大統領やマーク・ザッカーバーグ氏も愛読など、大きな話題になりました。
世界的ベストセラー、待望の日本語訳です。
本作は異世界文明とのファーストコンタクトを描いた作品で、舞台は中国です。物語の幕開けは文化大革命。
2人の主人公うちの1人、葉文潔(イエ・ウェンジエ/よう・ぶんけつ)は革命の闘争で父を失い、そののち政治犯の濡れ衣を着せられ、行き着いた先の巨大国家プロジェクトにおいてある決断を下します。
時は現代へ。もう1人の主人公、ナノマテリアル研究者の汪淼(ワン・ミャオ/おう・びょう)が警察と軍との会合で知らされたのはエリート物理学者らの不可解な連続自殺。調査を進める汪はVRゲーム「三体」にたどり着き、やがて事件の核心へと至るのですが・・・。
本書の凄みは、抜群のエンターテインメント性です。
序盤のミステリ、スリラーを凝縮した展開はSFファンでなくても夢中にさせてくれます。自殺した物理学者が遺した「これまでも、これからも、物理学は存在しない」という意味深な言葉、そして事件の調査に軍もかかわっていることが、陰謀の大きさを匂わせているのです。
中盤においてVRゲーム「三体」により謎はさらに深まり、物語のスケールも拡大します。
このVR世界には3つの太陽が存在するため、気候が全く予測できません。プレイヤーの目的は太陽の天体運動の解明です。
破天荒な人間計算機などの素敵なネタ要素に突っ込みを入れつつ、推論を積み重ねるわくわくは、これぞSFの醍醐味。作中で言及される三体問題が実際の物理学に存在する問題という点も興味を引きます。
このように加速度的に面白さが増していき、終盤に作品随一の驚きが待っています。数々の謎を明らかにしたうえで、絶対的絶望を見せつけるとんでもない仕掛けには脱帽。この興奮を誰かに話さずにはいられません。
史実を下地にした本作は、同時に文学としての深さ、重さも備えています。
葉の決断は血まみれの革命、歯止めの利かない環境破壊を目の当たりにしてきたことによる人類への絶望、現代への批判の視線も備えているという点で作者の高い力量が感じられます。
最後に、本作は3部作の1作目にあたり、これほど楽しい読書体験がまだ2回もあるのは嬉しい限りです。
文芸担当:唄