浦和 蔦屋書店の本棚Vol.6『ナインフォックスの覚醒』 ユーン・ハ・リー
SFジャンルのひとつであるスペースオペラとは、宇宙を舞台にした冒険小説でとても人気があります。それに一捻り加えたのが本作です。主人公のチェリスが属する六連合の重要拠点である砦が何者かに占拠されました。チェリスは大罪人の戦略家シュオス・ジェダオの精神をその身に宿し奪還作戦に向かいますが・・・。
主人公が拠点の奪還へ、しかしそこは難攻不落と化した要塞、如何にして攻略するのか!?というスターウォーズを彷彿とさせる王道スペクタクルですが、いくつかの要素を加えて最新型スペースオペラにアップデートされています。その1つで非常に重要となる設定が<暦法>です。数学と暦に基づいて生み出された科学体系で、暦法が有効である場合には通常の物理法則を超越した恩恵を得ることができます。特定のフォーメーションで発動する魔法陣の様なイメージといったところでしょうか。暦というだけあって日常生活の規律でありながら、同時に兵器の有効性も担保する国家の基盤です。しかし砦を奪った者は異端の暦法を用いて六連合の暦法を妨害している為、優位性を奪われています。そこで登場するのがジェダオです。かつて彼は最高の戦略家でした。しかし敵と同時に百万人以上の同胞を虐殺した大罪人であり、兵器として精神だけ生かされています。彼を身に宿すチェリスはひと時も気が休まりません。内と外の両面に脅かされる状況で進行する物語は緊張感に満ちています。艦隊の戦闘シーンや、窮地に陥ったチェリスが変容を余儀なくされるシーンが格好良く、これぞSFだと思わずニヤリ。
暦法をはじめとする造語やアイテムが多数出てきますが、数学の特別な知識がなくても読めるので幅広い人が楽しめる作品です。スペースオペラというと映画で楽しむものと思われがちかもしれません。CGを駆使した迫力のある映像も素敵ですが、戦闘シーンや人物やアイテムの造形に自分でイメージを与えていく読書もまた魅力があります。特殊な世界観へじっくりと想像に耽ることができる本作は文芸担当が自信をもってお勧めできる一冊です。
文芸担当:唄