浦和 蔦屋書店の本棚Vol.7『第五の季節』N・K・ジェミシン
出版界で『三体』の第二部の刊行が大きな盛り上がりをみせています。時を同じくしてまたまた話題作が登場しました。英語圏SFの賞で最大のヒューゴー賞、これを三部作で三年連続の受賞という前人未到の快挙を成し遂げたTheBrokenEarth(破壊された地球)シリーズの第一部、それが『第五の季節』です。
世界はこうして終わる。つぎはない―――TheBrokenEarthというシリーズ名が示す通り地球の破滅が描かれます。物語世界では、数百年ごとに“第五の季節”と呼ばれる大きな天変地異が起こり、いくつもの文明が滅んできました。地殻を操ることで、災害を止める超能力を持つ“オロジェン”と呼ばれる者たちがいます。この強大な力は社会を守ると同時に、一つの街を一瞬にして葬り去る兵器にもなりえます。そのため能力者は長らく畏怖され、差別されてきました。この物語は3人の女性を中心に描かれます。息子を殺し、娘を連れ去った夫を探すべく旅へ出るエッスン。両親の密告によって守護者に引き取られることになったダマヤ。フルクラムという組織に属し導師と任務へ向かうサイアナイト。(守護者、フルクラムは重要な役割を果たしますが割愛)。彼女たち三人はいずれもオロジェンです。家族や組織の中でそれぞれの受難があり、兵器や道具として扱われながら自由と居場所を求めて葛藤します。語り継がれてきた滅びの歴史。それに備えるための社会は、制度と人の心のどちらにも差別を生み出しました。単に災害によって文明が滅ぶ物語ではなく、差別を是とする社会を破壊する物語です。
この作品を読んだ時、私は大いに驚きました。まるで氷山にぶち当たるような感覚、とでもいいましょうか。全体は掴めないけれど、水面下に途轍もなく大きなモノを感じるのです。読み進めるほどにパズルのピースがはまってそれが見えてきます。作者の語りは非常に周到です。含蓄のある台詞回しや文章で着実に物語が進み、それまで別々に語られてきた3人の女性のストーリーが交わる時にその構成の巧みさに気づきます。さらにオロジェンのような魔法的な力にもきっちりロジックが用意されています。まさにファンタジーとSFのハイブリッド。第一部ということで残される謎もありますが問題はありません。この一冊だけでも十分に魅力的だからです。
文芸担当:唄