浦和蔦屋書店の本棚Vol.29 『怪獣保護協会』 ジョン・スコルジー 著 内田昌之 訳 / 早川書房

商品紹介
2023年12月01日(金) - 12月31日(日)
『怪獣保護協会』 ジョン・スコルジー 著 内田昌之 訳 / 早川書房

KPSは——けっして悪い意味ではなく——陰鬱な交響曲のような小説ではない。これはポップソングだ。軽快でキャッチ―な、いっしょに歌えるサビとコーラスがある三分分の曲。(作者のあとがきと感謝の言葉から)
 
 怪獣ファンの皆様にはぜひ手に取って頂きたい作品、『怪獣保護協会』を紹介します。まずあらすじをどうぞ。2020年アメリカ。ジェイミーはパンデミックのあおりをうけて職を失い、フードデリバリーの配達員としてなんとか生活費を稼いでいた。ある時、配達先で知人と再会して、彼が所属する大型動物を保護する団体の仕事を紹介される。あっという間に話は進み、そこで働くことになったジェイミーはグリーンランドへ向かうが、案内された基地は平行世界の地球で、保護する大型動物とはなんと怪獣だった!ジェイミーはKPS(KajuPreservationSociety:怪獣保護協会)の一員となって奮闘する。
 
 本作はエンタメ性に特化した怪獣作品です。まず作者の怪獣愛が小ネタになって随所に挟まれます。軽快なジョークとユーモアのある会話の応酬はじつにアメリカンでゴキゲンです。そしてテンポよく進んでクライマックスでガツンと盛り上がる痛快なストーリーテリングと、楽しいことだけを詰め込んだ作品になっています。

 マニアックなネタが豊富な作品ですが、設定もきっちり作りこまれています。怪獣は脅威をもたらす存在ですが、本作では観察して保護する対象です。その意味ではジュラシックパークの怪獣版でもあります。その怪獣パークの舞台は故郷とは違う生態系をもつ地球です。“怪獣は動物と考えるのではなく、それ自体を一つの生態系と考える”と作中で表現されます。また、怪獣は驚くべきことに、彼らの体とともに成長する原子炉を備えています。それら複雑な生態系のシステムが科学者たちの観察で少しずつ明らかにされていくのも本作の面白さです。このような設定は難しくなりがちですが、癖のある仲間の科学者たちとの愉快なやりとりのなかでわかりやすく説明してくれます。

 科学者が開発したフェロモンで怪獣を誘導して交尾させるなどのエクストリーム飼育員として奮闘するジェイミーたちですが、それだけで終わるはずはありません。怪獣で私腹を肥やそうとする清々しいまでのクソ野郎の悪役によって地球の危機に直面します。はたしてKPSは怪獣を守ることができるのか。パンデミックという現実からはじまり、驚くような世界を披露してダイナミックにクライマックスを迎え感動的なラストへ至る、読んでいる最中ずっと楽しい作品ですので、怪獣成分を欲している方はぜひ。とりあえずファニーなエンタメ作品を探している方にももちろんおすすめです。
 

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