浦和蔦屋書店の本棚Vol.30 『ホライズン・ゲート 事象の狩人』 矢野アロウ / 早川書房  

2023年12月22日(金) - 01月31日(水)
『ホライズン・ゲート 事象の狩人』 矢野アロウ / 早川書房  

ハヤカワSFコンテスト大賞は近年では直木賞作家の小川哲先生を輩出した由緒正しき賞です。今回はその大賞受賞作『ホライズン・ゲート 事象の狩人』を紹介します。
 
  人類が支配する宇宙。超巨大ブラックホール〈ダーク・エイジ〉に存在するのではないかという、別の宇宙に通じる特異点〈門(ゲート)〉を発見すべく探索が行われる。右脳に始祖の神ゲーイーを宿す少女シンイーは、過去と未来を見通す予知能力をもつパメラ人のイオの護衛として〈ダーク・エイジ〉へむかう。時空の果て〈事象の地平面〉で彼らが目にするものは・・・
 

 まず、生物の生存は許されず捕えられたら決して抜け出せないブラックホール、そこにあるかもしれない別の宇宙への〈門〉の調査を予知能力であ追跡するという、極限と浪漫がせめぎ合う舞台設定が実にわくわくさせてくれます。

 次に、主人公の少女シンイーです。砂漠の狩猟民族出身の射手(シューター)で、彼女の右脳には始祖ゲーイーが宿っています。ゲーイーに無意識領域を明け渡すことで彼女が発揮する超人的な狙撃が、〈ダーク・エイジ〉を観測するイオを襲う謎の現象〈ネズミ〉から彼を護ります。凄腕な主人公が端的に格好いいです。

 そして、物語で重要になるのが時間のずれです。1回の遠征で30年が経過します。また〈事象の地平面〉の潜航はイオにとっては20分ですが、その間シンイーは6年が経過します。これは速く移動する者は時間の進みが遅くなる浦島効果によるものです。シンイーはイオを見守りながら独りで6年もの歳月を過ごします。そしてイオは少年のままなのに自分が年老いてしまうシンイーの切ない葛藤が本作の読みどころです。また遠征の30年の科学の発展によって生まれる新装備や分析などの社会の変化もストーリーを加速させます。設定が相互に作用する物語は読んでいて気持ちがいいです。

最後に、文章が美しい点も見逃せません。冒頭、シンイーが故郷の砂漠と空を思うシーンからして雰囲気たっぷりです。ハードSFのロジックの硬さとともに、ノスタルジーと神秘性も感じます。

SFファンが満足なのは言うまでもありませんが、200ページ未満なのでエンタメとして気軽に手に取って頂きたいです。

SHARE

一覧に戻る

RELATED EVENT

STORE LIST

ストアリスト