浦和 蔦屋書店の本棚Vol.31 『白亜紀往事』  劉慈欣 著 大森望 古市雅子訳 /  早川書房

2024年01月03日(水) - 01月31日(水)
 世界を席巻した超大作『三体』の著者・劉慈欣先生が恐竜と蟻が築き上げた白亜紀文明の興亡を描く『白亜紀往事』を紹介します。

 ある平和な一日、恐竜の歯に挟まって取れなくなった肉を蟻が掃除してあげたことがきっかけでした。恐竜はすっきり、蟻は肉にありつくことができたわけです。それから歯の掃除、歯医者、医者という具合に蟻と恐竜は共生を深めます。恐竜には好奇心と想像力がありますが、体が大きすぎるためにとても不器用です。一方の蟻は集団的な知性と精密な作業を得意としますが、個体としては想像力を欠きます。そのためどちらも高い文明を有していましたが、さらなるブレイクスルーが生まれない状況でした。同じステージに立つはずのなかった生物が協力したならどのような発展を遂げるのかという大胆な着想から始まるのが本作です。それを成立させてしまう劉先生の腕力をとくとご覧ください。

 竜蟻同盟(りゅうぎとうめい)によって文明は飛躍的な発展を遂げます。しかし互いに依存しながらも、独立した世界に暮らす二つの文明が衝突する原因となるのが宗教的対立です。蟻と恐竜の戦争、さらに恐竜と恐竜の戦争、科学の発展に伴い悲劇の規模は大きくなっていきます。人類文明を戯画化する面もありつつ、小さく弱い蟻が巨大な恐竜といかにして戦うかという小人と巨人の白熱の戦いをスケール感を活かしながらダイナミックに展開して、物語の進行とともに風呂敷を広げてクライマックスで最もインパクトのある場面で魅せて、けれど最後は切ない、完璧です。
 
 独創的なアイディアと、読者を退屈させないストーリーテリングがコンパクトにまとまっている本作ですから、劉先生のファン必読であることはもはや言うまでもなく、劉先生の作品にはじめて触れるという方も気軽に手にして頂いて、ゆくゆくは『三体』まで進んでいただければと思います。

 余談ですが、表紙はワイルドで本体はキュートな装丁も最高です。
 
 
追記
短篇集『老神介護』(KADOKAWA刊)に収録されている「白亜紀往事」は本作の短編版です。ストーリー自体は同じですが、核となるアイディアのインパクトで魅せるのが短編版で、フルバージョンである本作はより充実の読みごたえになっております。短編をすでに読んだ方にもおすすめです。
 

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