浦和 蔦屋書店の本棚Vol.32 『案山子の村の殺人』 楠谷佑 / 東京創元社

フェア
2024年01月13日(土) - 02月12日(月)
『案山子の村の殺人』 楠谷佑 / 東京創元社

 『案山子の村の殺人』を紹介します。昨今においては驚くほどにクラシックなミステリです。案山子に対する民間信仰が根付く秩父の山奥の舞台、閉鎖的コミュニティのしがらみや因縁、大学生の転落事故、その現場に置かれた喪中のための案山子の失踪、そして雪と密室での殺人、と物語を盛り上げる設定が配置されています。
 事件に挑むのは楠谷佑。合同ペンネームでミステリ作家として活動する従兄弟の二人の大学生です。もちろん読者も事件の推理に参加するでしょう。本作には解決篇の前に読者への挑戦状が挿入されています。謎を解いてみろというわけです。そして挑戦状を突き付けるだけあって謎を解くカギは作品内にフェアに提示されています(フェアでなければ解けなかったとしても悔しくはありません)。しかしミスディレクションが巧妙なので、全員が怪しく思えてくるはずです。王道ですが決して陳腐ではなく、真相への道中を楽しむというミステリのフォーマットに徹底して忠実である本作は、かえってお目にかかれないほどにクラシックで正統派でロジカルで端正な推理小説です。皆様こういうミステリを待っていたのではないでしょうか。

  エラリー・クイーンのファンの方は必読、そうでない方にももちろんおすすめです。なお本作がシリーズ第一弾ということで続編への期待が膨らむばかりです。
 

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