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【第81回】間室道子の本棚 『メインテーマは殺人』アンソニー・ホロヴィッツ/創元推理文庫

「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
 
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『メインテーマは殺人』
アンソニー・ホロヴィッツ/創元推理文庫
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お笑いの賞レースで、あるコンビに対して審査員が「面白いより上手いと感じすぎてしまった。本当に面白い漫才師は上手いと感じない。"うわ、おもしれえ、すごい"となる」とコメントし、話題になったことがあった。

たしかに、本当にいい料理は「包丁技術が」とか「煮込み加減が」の前に「おいしい!」の嵐だろうし、美しい景色は「きれいだなあ」の後言葉を失うだろう。

それでも「面白い」の前に「上手い!」が来るものはあると思う。とくにそのジャンルの大ファンやマニアはたくさんの作品に触れているので、内容がしみる前に技術にうなることがある。私にとってはアンソニー・ホロヴィッツのミステリーがそうだ。

前作『カササギ殺人事件』が大ヒットしたこの作家はテレビドラマの脚本家としても有名な人で、人の心、それも、不特定多数の大衆をクギヅケにすることにものすごく長けている。

最新作『メインテーマは殺人』はご本人登場作品で、「ある女が葬儀社に入り、自分の葬儀について何から何まで決めていった。その六時間後に彼女は殺された」という謎に、作家アンソニー・ホロヴィッツが偏屈な刑事とともに挑む。

このテの「意外なコンビ」って、「最初は反発しあっていてもそのうち仲良くなるんでしょ」が見えているもの。しかし本書のひねくれ刑事は「腕は一流だけど周りとうまくいかず、そのうちロンドン警視庁をクビにまでなり、でも一部の上役に頭脳を買われて警察のコンサルタント的活動をしている」という人物。口、性格、金払いが悪いし、空気は読まないしプライド高いし自分にはなんの問題もないと信じきっている。こんな男とホロヴィッツの友情が、話が半分以上進んでもぜんぜん見えてこないのが新感覚。

そして、ふつうの推理ものは、解くべき謎を深堀りしていけば真相が見えてくるものだが、本書は「読者は作者アンソニー・ホロヴィッツに何を追わされているのか」がすごい。あと、ふつうのミステリーの「アクロバット的な展開」って物語が急カーブする時に脳みそが横倒しになるような負荷が発生。ようするに「そんな、ごむたいな」に陥りがち。

しかし本書の驚異的な飛躍には無理がない。これだけの大仕掛けをなんでもないことのようにやってのけるから、「そういうことだったのか!」に頭とココロがひたる前に、「とにかく作者にヤラレタ!」がくる。これぞホロヴィッツ。そしてこういう漫才師もおります。ネタもばつぐんだけど、話術、間合い、さりげない動きのみごとさなど、名人芸に酔いしれたい方におススメ!
 
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代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室  道 子
 
【プロフィール】
雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『婦人画報』、朝日新聞デジタル「ほんやのほん」などに連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『タイニーストーリーズ』(山田詠美/文春文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)などがある。
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