【第82回】間室道子の本棚 『丸の内魔法少女ミラクリーナ』 村田沙耶香/KADOKAWA

「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
 
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『丸の内魔法少女ミラクリーナ』
村田沙耶香/KADOKAWA
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「あの『コンビニ人間』の」という形容詞をいつまでも付けられたくない、と村田沙耶香さんは思っているかもしれないけど、この人が書きたいことはただひとつ、「人間って、きもちわるいよね」ということなんだと思う。『コンビニ人間』にはそれがよくあらわれていて、最新作も期待を裏切らない読み味。

私がもっともうなったのは「無性教室」だ。

この時代、学校では性別が禁止されている。小学校へあがると全員ショートカットになり、性の兆候が出る小学校高学年になると男女ともにトランスシャツと呼ばれる「胸がつぶれた状態になるシャツ」を着る。指定のシャツと紺色のズボン。一人称は「僕」で統一され、名前も男女がわかるものはだめ。主人公の「優子」は学校への登録名を「ユート」とした。友達もミズキ、コウ、ユキなど性がわからない名ばかりだ。

中一くらいまではこれで「性別はナシ」でいけるのだが、そこから上、ましてや高校生にもなれば、体つき、身長、喉仏などで、もう誰が男で誰が女かわかる。ユキは女子で、ミズキとコウは男子だ。でも皆知らないふりをして学校生活を送っている。なぜなら、それが決まりだからだ。

だが中性的な者もいる。ユートがひそかに恋しているセナ。身長は170センチほどで、男性にしては筋肉が少なく、喉仏も男子に比べると出ていない。姿勢がよく、仕草がきれいなセナ。ユートはセナのトランスシャツを引き剥がし、ズボンの中の性器がどちらなのか暴いてみたくてしょうがなくなる。

しかしユートに告白し、体の関係を迫ってきたのは・・・。抵抗するユートに、その人物は衝撃的なことを告げる。

この「性差別をなくするために性そのものを禁じる」ほか、「36歳でまだ、魔法少女ごっこがやめられない」「初恋の人が忘れられないので彼を監禁してみる」「怒りという感情をいつしか持たなくなった人たち」など相変わらず極端から極端へ飛ぶ全4話。

「そんなばかな」と思うどころか、似たことはすでにあちこちで始まっているな、と思う。薬物疑惑の人の音楽は消え(でもワイドショーでその事件をやる時には「みなさん、この人ですよ!」とばかりに代表曲が流れる)、「食べ物を粗末にするな!」というクレーム対策として、バラエティ番組でひどい状態になった料理が映ると「スタッフがあとでおいしくいただきました」というテロップが流れる。運動会では平等のため「手つなぎ徒競走」(もはや「競走」ではないが)がおこなわれ、海の向こうでは、この結末では教育上よろしくないという理由で悲劇の名作童話のラストがハッピーエンドになった本や映画がつくられた。

フラットにする、清潔な無菌状態にする、公平の名のもとに特徴を無くす。問題が起きた時、どう踏み出し、理解し、解決するかではなく「こうすれば問題がないことになる」という方法が取られる今。

それでみんながどんどん澄んだ存在になっていくかというと逆で、透明にすればするほど得体のしれない暗部が見える。私たちは、きみがわるい。これが村田ワールド。

今回も制御不能な世界へようこそ!
 
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代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室  道 子
 
【プロフィール】
雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『婦人画報』、『Precious』、朝日新聞デジタル「ほんやのほん」などに連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『タイニーストーリーズ』(山田詠美/文春文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫)などがある。

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