【第83回】間室道子の本棚 『占(うら)』木内昇/新潮社
「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
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『占(うら)』
木内昇/新潮社
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占い、お好きですか?本書はドはまりしたあげく自分を見失っていく女たちの短編集である。
男性陣は鼻で笑うかもしれない。「占い特集」は主婦向け、ファッション系、カルチャー誌を問わず女性誌でよく組まれる特集で、その号はよく売れるけど、男性雑誌でこのテーマは見たことがない。
でも男の人にだって、易やご神託におおいに頼ってきた歴史がある。古代日本の政治の重要ポストであった陰陽師や、悪いものが入ってこないよう建てられた神社、雨ごい、聖地への不可侵。つまり男とって占いは「武器」だったのだ。そして今はそれ以上のものができたので(なんだろう?核兵器とか?仮想通貨とか?宇宙軍とか?)、お告げは必要なくなった。一方女性にとって占いは「他に対してふるう力」ではなくつっかえ棒のようなものなのだと思う。風に揺れる草花のような私の、支柱。
ただ、『占』に登場する女たちは不安のあまり、棒の大きさや強度にとらわれ出した。支えだけ太くしても、自分が根腐れしたらどうしようもないのに。
悩ましいのは、何人かの女が口にする「真実を知りたい」というせりふだ。彼との関係は、これからの生活は、辿り着く未来が一つのはず。それを教えてほしいと食い下がる。
そりゃあそうだ。「あなたの運命の赤い糸は346人と繋がっています」とか「商売先は四方八方どこでも、あなたのやり方次第で!」などと言われたらありがたみがないし、占いに来た意味がない。
もちろん、占い師側のうんざりにも同情できる。二話目に登場する19歳の娘はある日、お世話になっている大叔母さんの家に人生相談に来た女の相手をすることになる。間が持たず、困って目をつむり、ぐるぐると渦巻く風景の中でふと聞こえてきた言葉とともに、日ごろの人間観察で培ったあれこれを告げてみたところ、「おっしゃるとおりになった」「一度私も視てほしい」と客が殺到。「千里眼」と評判を取ることになる。
しかし中には何を言っても納得してくれず、恋する男へのだらだらした思いや亭主への際限なき不満をぶつけてくる者もいる。客たちを早く帰らせるにはどうしたらいいかと考えた娘は、女というものは真実を知りたいのではなく、自分が望む答えを「千里眼」である私の口から聞きたいだけなのではないか、と思いつく。
耳の奥の声や予感より、相談者の喜びそうなことを優先。そうした結果、起きたこととは?そしていちばん長居と再訪がしつこかった、夫への猜疑心にまみれたある女性の結末とは・・・。
苦みの中にこの著者独特のユーモアもあり、深い読み味と軽快さをお約束する傑作。