【第120回】間室道子の本棚 『モダンラブ いくつもの出会い、とっておきの恋 ニューヨーク・タイムズ掲載の本当にあった21の物語』 ダニエル・ジョーンズ編/河出書房新社
「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
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『モダンラブ いくつもの出会い、とっておきの恋 ニューヨーク・タイムズ掲載の本当にあった21の物語』
ダニエル・ジョーンズ編/河出書房新社
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めちゃくちゃ面白いですよ、と最近すすめまくっているのが本書。アメリカの一般市民および著名人のみなさんが、ニューヨーク・タイムズ紙に投稿した恋愛実話コラム集だ。どれもなんて違ってるんだろう、と驚き、楽しくなってきた。
ある著名人が十年くらい前に言っていたのだけど、海外の番組に倣って「あなたの人生でじっさいに起きた、信じがたい、面白い、感動的な話」をラジオで募集したところ、日本では「私にどういうことがあったか、聞いて!知って!わかって!」になりがちだった。めんめんと綴られた「できごとの一部始終」や「気持ちの吐露」。よいものはラジオで朗読、という企画はあまりうまくいかなかったそうだ。おそらく「書かれてることは違うんだけど、なんだか同じ味」だったのだろう。
一方この手の応募に参加するアメリカ人たちは、他人に「あきさせず、スマートに読ませる」が得意だ。悲しい話でもどこかにユーモアがあったり、爆笑譚にもほろっとさせるところがあったりして、ぴりっとまとめられている。
本書の「どれもなんて違っているんだろう」は、そのアメリカ的な「人を楽しませる」がおおいに発揮された結果だと思う。
おすすめは、母親が国務省に勤務する敏腕心理プロファイラーで、娘のBFをチラ見しては「私は気に入らないわ」と言ってくる、という三十二歳の女性の投稿だ。お母さんは仕事で海外にいて、娘に会うのは年に二回ほどだけど、今はフェイスブックがあるので彼氏の顔やプロフィールを世界のどこにいても把握できるのである!
腕にタトゥーを入れたロッカー風の外見と短いコメントだけでは、彼が子供好きなこと、お菓子作りと家のリフォームが得意なことなんかわからないじゃない、私が一人っ子だから、ママは娘にパートナーができたら独占できなくなると思って、どんな男にでも何かしらのNG理由を見つけ出すのでは、と投稿者はモヤモヤする。でも悩ましいのは、母親の今までのダメ出しがことごとく正しかったことだ!
そのほか、居住者の恋の行方を静かに見つめ続けるドアマンの物語や、新しいマッチングアプリを創設したCEOに女性ジャーナリストが「あなたは本気で恋をしたことがある?」と質問したことから始まる過去の掘り起こしなど、本当にバラエティに富んでいる。
でも、こうも思うのだ。なんて同じなんだろう、と。お話が似たり寄ったりということではなく、恋のお悩みは過去も現在もかわらないな、と思えてくるのである。
「既読スルー」を投稿した女性は、つきあいたての彼が返事を寄こさないことに不安と不満を膨れ上がらせる。「自分が送ったメールは変だったのか」に始まり、「彼は返信しない派なのかも」を経て、「これから五分携帯を見なければ返事が来る」という意味不明なおまじないに走り、さらに「何も言ってこないのは、私の本性に気づいたから?」と考え、バレたら好きになってもらえそうにない自分の癖や習慣を数え上げる・・・。
こんなの、のろしが通信手段だったころから変わらないのだ!
本当の私を受け入れてほしい、完璧になりたい、素敵な恋さえ見つけたら人生はうまくいくのに・・・。出会いや連絡方法のツールは変わっても、男女のままならなさは昔と同じ。そんなコラム二十一本。タイトル通り現代の恋愛を活写しながら、変わらぬものをすくい上げる。そう、本書は、永遠の愛の本なのだ。
ある著名人が十年くらい前に言っていたのだけど、海外の番組に倣って「あなたの人生でじっさいに起きた、信じがたい、面白い、感動的な話」をラジオで募集したところ、日本では「私にどういうことがあったか、聞いて!知って!わかって!」になりがちだった。めんめんと綴られた「できごとの一部始終」や「気持ちの吐露」。よいものはラジオで朗読、という企画はあまりうまくいかなかったそうだ。おそらく「書かれてることは違うんだけど、なんだか同じ味」だったのだろう。
一方この手の応募に参加するアメリカ人たちは、他人に「あきさせず、スマートに読ませる」が得意だ。悲しい話でもどこかにユーモアがあったり、爆笑譚にもほろっとさせるところがあったりして、ぴりっとまとめられている。
本書の「どれもなんて違っているんだろう」は、そのアメリカ的な「人を楽しませる」がおおいに発揮された結果だと思う。
おすすめは、母親が国務省に勤務する敏腕心理プロファイラーで、娘のBFをチラ見しては「私は気に入らないわ」と言ってくる、という三十二歳の女性の投稿だ。お母さんは仕事で海外にいて、娘に会うのは年に二回ほどだけど、今はフェイスブックがあるので彼氏の顔やプロフィールを世界のどこにいても把握できるのである!
腕にタトゥーを入れたロッカー風の外見と短いコメントだけでは、彼が子供好きなこと、お菓子作りと家のリフォームが得意なことなんかわからないじゃない、私が一人っ子だから、ママは娘にパートナーができたら独占できなくなると思って、どんな男にでも何かしらのNG理由を見つけ出すのでは、と投稿者はモヤモヤする。でも悩ましいのは、母親の今までのダメ出しがことごとく正しかったことだ!
そのほか、居住者の恋の行方を静かに見つめ続けるドアマンの物語や、新しいマッチングアプリを創設したCEOに女性ジャーナリストが「あなたは本気で恋をしたことがある?」と質問したことから始まる過去の掘り起こしなど、本当にバラエティに富んでいる。
でも、こうも思うのだ。なんて同じなんだろう、と。お話が似たり寄ったりということではなく、恋のお悩みは過去も現在もかわらないな、と思えてくるのである。
「既読スルー」を投稿した女性は、つきあいたての彼が返事を寄こさないことに不安と不満を膨れ上がらせる。「自分が送ったメールは変だったのか」に始まり、「彼は返信しない派なのかも」を経て、「これから五分携帯を見なければ返事が来る」という意味不明なおまじないに走り、さらに「何も言ってこないのは、私の本性に気づいたから?」と考え、バレたら好きになってもらえそうにない自分の癖や習慣を数え上げる・・・。
こんなの、のろしが通信手段だったころから変わらないのだ!
本当の私を受け入れてほしい、完璧になりたい、素敵な恋さえ見つけたら人生はうまくいくのに・・・。出会いや連絡方法のツールは変わっても、男女のままならなさは昔と同じ。そんなコラム二十一本。タイトル通り現代の恋愛を活写しながら、変わらぬものをすくい上げる。そう、本書は、永遠の愛の本なのだ。