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【第153回】間室道子の本棚 『見知らぬ人』エリー・グリフィス/創元推理文庫

「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
 
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『見知らぬ人』
エリー・グリフィス/創元推理文庫
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帯に「この犯人は、見抜けない。」とあり、なにおう!と思った。筋金入りのミステリーファンなら「私に対する挑戦であります!」「受けて立つ!」「上等だコラァ!」など、ふつふつ湧き上がるものがあるはずだ。

で、この手の帯の作品って、読んでみたら「そりゃ、見抜けないよ。そんな動機で人が人を殺す?」「あんなしちめんどくさいトリックがわかるものか!」になりがち。でも本書はまったくのフェア。すべてが目の前にあるのに気づけなかった。ヤラレタ!

舞台はイギリスの田舎、ウエスト・サセックス。主人公は離婚を機にここのタルガース校に英語教師の職を得て、五年前にロンドンから越して来たクレア。美しき四十代。

タルガースの敷地内には彼女を引きつけてやまないものがあった。怪談「見知らぬ人」で名を残した作家、R・M・ホランドの屋敷である。館にはここで転落死した妻の幽霊伝説が。また、ホランドの日記や手紙や詩に「わたしの愛しい子」「Mよ安らかに眠れ」とあるのにお墓が見つかっていないマリアナ。

学校には美人教師がもう一人いた。クレアがショートの黒髪、モデルのように高身長でスレンダー、そして常識人なのに対し、金髪のロングヘア、学内の催しにワンダーウーマンの仮装をして喝采をさらった奔放なエラ。このエラが殺され、事件が始まる。

クレアの日記を挟みながらお話は進行し、ある日の文章に異様なことが起きる。すれっからしのミステリーファンなら「あれか!?」と色めき立つシーンだが――ううむ、ねたばれにならぬよう書評を書くのは難しいですね。

閑話休題、物語には二人目の視点が出てくる。事件担当の女性刑事・カー。本人曰く「インド人、同性愛者、実家住まいの三重苦」(欧米では、成人した子供がいつまでも親と暮らしているのは変、という価値観がある)。彼女の登場一行目が「最初からクレア・キャシディが嫌いだった」で、おおっと思った。

ふつう捜査役は関係者を好きだの嫌いだの言わないものだ。だいたいカーがなぜ反感を持ったかというと「大きな目、長い首、どこまでも続く脚、わたしが着るとテントになってしまうようなドレスを着て、軽やかに歩くたぐいの女性だ」。完全に自分のコンプレックスからなのである!

でも、気に入らない相手のことって無視した上に偏見を塗りたくりがちだけど、カー刑事はクレアをものすごくよく見ている。事件のすぐあとタルガース校に車を止めた自分と相棒を教室の窓から見下ろしていた白い顔、黒い目に気づくほどに。

さらに第三の視点が登場。クレアの娘でタルガースの生徒、十五歳のジョージアだ。内面描写からわかるのは、親は、先生は、ティーンエイジャーを何もわかってないということ。

この子には二十一歳のBFがいる。クレアは年の差を心配しているが、元夫で鼻持ちならない男の度合いを更新しつつあるマイケル(彼と新しい妻は、バレンタインにポルチーニ茸を贈りあっている!)がやたらと別れさせろというので、逆にものわかりのいい母親であろうとしている。

ジョージアのひとり語りによれば、彼氏は彼女が十六歳になるまで本当のセックスはしないと宣言していて、その結果二人は「最後以外のすべてをする」そうだ。おませさんというかなんというか。そしてママや他の先生は、自分たちが認識している以上にこの娘が文学好きであることを知らない。

ほかにクレアと死んだエラの両方を口説いていたリック(学校&プライベートにおける彼の立場以上に、二人の女に同じものを使ったのが許せない、という女性は多いはず!)、燃える校長トニー、白魔術を使うという噂のヒューズ先生、怪奇作家の新たな手紙を発見したケンブリッジ大学のヘンリーなどが登場。「姿は見えないけれどいつも同じ距離を保ちながら背後にいる――なめらかに容赦なく動く、未知の、それでいてなぜかぞっとするほどなじみ深い人影」とは?

ホランドの怪談「見知らぬ人」が低く鳴り続けるドラムロールのように全体を覆っている。魅力的な人物群、意外な犯人だけでもすごいのに、この作品は「ミステリーのムード」を持っている。読後、閉じた本に拍手。おじぎ。万歳三唱。


 
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代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室  道 子
 
【プロフィール】
雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『婦人画報』、電子雑誌「旅色 TABIIRO」、朝日新聞デジタル「ほんやのほん」などに連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『タイニーストーリーズ』(山田詠美/文春文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫)などがある。
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