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【第154回】間室道子の本棚 『琥珀の夏』辻村深月/文藝春秋

「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
 
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『琥珀の夏』
辻村深月/文藝春秋
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自然の中で会員たちが暮らす<ミライの学校>。子供の自主性を強く重んじるこの団体では、親子は一緒に暮らさない。子は<学び舎>で「先生」たちと生活し、親は他の支部へ。たとえ同じところにいても生活範囲が別で会うことはできない。自分は一般社会で暮らし、娘や息子だけを預ける人もいる。

外部の子供たちの夏合宿参加を募るVTRがあった。「帰ってきたら目の輝きが違う」「思いを表すのが苦手な子だったのに言葉があふれて止まらない」という街場の親たちの感想のあと、団体最大の"売り"である<問答>のシーンが映される。戦争、平和、愛、友情について子供たちに議論をさせるのだ。そしてビデオの半ばに出て来た、象徴である美しい泉・・・。

それから三十年。静岡の本部跡から女の子の白骨遺体が出て来て世間は大騒ぎになる。そして弁護士・近藤法子のもとに「あれは自分たちの孫ではないか」と言う高齢の夫婦がやって来た。問い合わせをしてもけんもほろろな事務局との橋渡しをしてほしいと言うのだ。

宗教!カルト!と団体に大バッシングが浴びせられる中、法子には、あそこは楽しかった、という思いが湧き上がっていた。親が会員だったクラスメートに誘われ、彼女は小学四年から三年連続で合宿に参加していたのである。

うまくやれていないふだんの学校と違い、夏の一週間、私は私でいられた。そしてお母さんお父さんと離れて<学び舎>で暮らしている同い年のミカちゃんと友達になれた―。

でもぜんぶ忘れていた。死体が出るまで。

老夫婦の孫は、生きていれば四十歳だという。法子と同じ。あの夏、私は死んだ子と出会っていたのか。頭をよぎるのは・・・。

物語にはほんとうにいろんな人が出てくる。敵意を見せる<学校>の広報担当の田中という女性、告発本を書いた元「先生」、大人になった子供たち、法子の母。<ミライの学校>にかかわった人はなんらかの形であそこにとらわれていることがわかってくる。

悪意になら反発や反論ができる。でも向けられた言葉や行動が愛情でコーティングされている時、私たちは疑問やそれでは嫌だという気持ちを押し殺してしまう。その愛が剥がれた時、奥底にあるのは――。琥珀の中の虫は、守られているのか、閉じ込められているのか。ページをめくりながらそんなことを考えた。

読みどころは、法子が「相手と同じ側に立った」と思うシーンだ。幼い頃、夜の泉で。白骨事件の、ある人の弁護を引き受けるかどうかの渦中で。

私にもっとも印象深く残ったのは、同じく弁護士である夫・瑛士との関係だ。三歳になる娘の育児や保育園探しについて、法子は「夫は協力的」という言葉を使っている。つまり「メインは自分」なのである。また、「この日はたまたま!」なのかもしれぬが瑛士は食べ終えた昼食の皿を自分で下げない。女性読者はこれを見逃さないだろう。さらに以前、彼ははにかんだ笑みを浮かべながら法子に夫婦のNGワードを言ったことがある。

でも「牛乳パック騒動」の後、彼女が帰宅した夫と話す場面。ここを読みながら思ったのは、NG発言の根っこにあったのは男のエゴではなく、赤ん坊はとにかくかわいいよな、という気持ちだったのではないか。愛っぽいものをひっぺがしてみたら、出てきたのはやっぱり鈍感な彼なりの愛だった。そして法子はここで気づくのだ。弁護士という職のきびしさ。親として娘を祝福する気持ち――夫と自分は同じ側にいる、と。

法子、そして読み手の前で、視界がぱーっと開ける感じが素晴らしい。
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代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室  道 子
 
【プロフィール】
雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『婦人画報』、電子雑誌「旅色 TABIIRO」、朝日新聞デジタル「ほんやのほん」などに連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『タイニーストーリーズ』(山田詠美/文春文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫)などがある。
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