【第158回】間室道子の本棚 『どうやら僕の日常はまちがっている』岩井勇気/新潮社

「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
 
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『どうやら僕の日常はまちがっている』
岩井勇気/新潮社
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お腹がどきどきするエッセイだ。ふつうは胸だけど、岩井さんのは体のど真ん中に来る。

これは何だろう、と考え、この欄の第72回『僕の人生には事件が起きない』で、彼の「受けて立つ感じ」を書いたのを思い出した。

失敗や、やりたくないこと、嫌なことが起きたとき、皆どうやったら傷を浅くして逃れられるかを考える。本書で岩井さんは己の強度を試しに行く。

ここでの強さは、タフネスという厚みや根性という熱さではない。自身の硬質で冷ややかな感じに彼はトライする。

たとえば四つ目の章。スピーチを頼まれ引き受けた=それくらい仲の良い友だちの結婚式当日、岩井さんはすべてを忘れてホームセンターにいた。「披露宴始まるよ。来ないの?」と別な友人からメールが来て、氷結していた記憶に血がめぐる。宴のスタートは五時。今はそのオンタイム。会場まで1時間はかかるし、着替えだってしなければならない。

99.99%の人が行かないだろう。でも岩井さんは「今から急いで行ってみて、終了までにギリギリ間に合ったとしたら、会場はどんな空気になるんだろう」――これを実行する。試したいのは相手の受け入れ度ではない。さらされる自分だ。

すぐあとの五章に、彼の小学三年の夏休みにお母さんがやらかしたことがでてくる。この子にしてこの母あり?!並べ方にシビれた。

で、岩井少年は「地獄の二日間」を味わうのだが、事態の終わりに自分宛に書いた文のラスト一行と、それが大人になって部屋から出て来た=つまり取っておいたって、すごい。「僕が僕になにかをぶつけてみる」は幼い頃からの癖(へき)なんだー、とわかる。

大阪前乗りにおける居酒屋の店員、元不良である後輩の恋、珪藻土バスマットとお母さん(またも!)など、強度だめしでは「相手、またはてんまつがややうわ手」なことが多い。日常生活にちょっぴりヒビが入る。そりゃそうだ。「わたしはびくともしませんでした」に笑いは生まれない。

そして世の中には金つぎというものがある。お皿や碗が割れ、漆でくっつけたところに金を施すのだ。「アロンアルファでなにごともなかったように見せかける」じゃない。金つぎをするとどこがどう割れたかが一目瞭然。線が走りまくるから。でもそれは金なの。破損VS.最高級の金属。情緒がどうかしそう。そのどきどきにより、無傷のものより味が出る。これが岩井さんのエッセイじゃないかと思う。

テレビで彼が毒舌を振るう時、相手の弱点を攻撃するのではなく僕はこれでどこまで行けるか、という目をしているのがいい。そんな岩井さんが唯一容赦なく弱みにつけこむのが、相方・澤部さんに対して。お前は、俺たちは壊れない、という信頼。腹の底からどかんどかんと来た!
 
 
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代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室  道 子
 
【プロフィール】
雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『婦人画報』、電子雑誌「旅色 TABIIRO」、朝日新聞デジタル「ほんやのほん」などに連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『タイニーストーリーズ』(山田詠美/文春文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫)などがある。

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