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【第159回】間室道子の本棚 『マリコ、うまくいくよ』益田ミリ/新潮文庫

「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
 
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『マリコ、うまくいくよ』
益田ミリ/新潮文庫
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今回は漫画!新卒採用で2年目になる24歳の岡崎マリコ、12年目で34歳の矢部マリコ。勤続年数より「定年まであと何年」のほうが短くなった42歳の長沢マリコ。同じ会社に勤務する三人のマリコが登場する。

彼女たちは「仲良し」ではない。トイレで顔をあわせて挨拶したり(この漫画にはトイレのシーンがほんとうによく出て来る。生理現象解消以上に、会社における女たちの一時避難場であることが描かれる)、仕事を頼んだり、会議で同席したりと、ごくふつうの社内関係だ。

昔にくらべたらよくなっているんだろうけど、30代のマリコは自分の会社に「100万年たっても女性の役員はでてこない」と思っている。給湯室のお湯をわかしておくために早出する「お茶当番」は女性だけにあるし、「女の人は笑顔が一番」「おれ、あの人いけますよ」が誉め言葉だと思っている男性たちがいる。

男女間の不平等や無理解ばかりではない。子供を産むことと勤務について、20代のマリコは同期の女性たちと「今やってることは私にしかできなってわけじゃないし」「産休取ってまで、って悪い気もする」とおしゃべりしあう。「そういう仕事で事実なんです」としても、自分がやっていることを自分で軽く見るのはつらいだろう。

ほかにも「あれを小さなゴールと見ていいのか」「これを成長と呼びたくないのはなぜなんだ」という問いが漫画のあちこちでもれる。

そう、彼女たちのモヤモヤは、男女差や世代差じゃない。自分の人生の主人公が自分じゃないことなのだ。

マリコたちはどうなっていくのか。ささやかな試みが読みどころ。

「ささやかすぎる!」と不満に思う人もいるだろう。とくに最後、「え、こういう終わり方なの?」とあっけにとられた人は多いはず。でも、このフェイドアウトのみごとさは、先に書いた「会社における女性トイレ利用」にも通じるところがあると思う。

熱血企業漫画なら、「ついに一緒になった三人が手を組み、明日から上司や男どもに立ち向かっていくのだ!」となるだろう。でも彼女たちは「会社のヒロイン」じゃない。「壁に風穴あけてやるぅ!」ではないのだ。無理せず、細~く窓を開ける。じわじわと、でも確実に、空気は入れ替わる。

等身大の、日本企業で働く女性がここにいる。俺もマリコだ!と思う男性もいるはず。

あるマリコが社員食堂で食事をする大勢を見て、この会社の人たちって、ちょっとずつ同じ成分でできてるんだー、とおののくシーンや、会議の何割かは議決じゃなくて、社内における自分の居場所づくりのために開かれてるんじゃないかな、という別なマリコの目線が愉快。おすすめです!
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代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室  道 子
 
【プロフィール】
雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『婦人画報』、電子雑誌「旅色 TABIIRO」、朝日新聞デジタル「ほんやのほん」などに連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『タイニーストーリーズ』(山田詠美/文春文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫)などがある。
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