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【第185回】間室道子の本棚 『ミス・サンシャイン』吉田修一/文藝春秋

「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
 
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『ミス・サンシャイン』
吉田修一/文藝春秋
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主人公は大学院生の岡田一心。彼は往年の大スター和楽京子、本名石田鈴さんのマンションで資料整理のアルバイトをすることになる。引退して十年、彼女は八十代。

面白いなあと思ったのは「時間」について。幼馴染は「ばあさんとふたりっきりで荷物整理かあ。俺なら可愛い子がバイトしてるカフェとかで働くけどな。だってもったいなくない、時間が」と言った。

しかし一心は鈴さんといると、時間を得しているような気持ちになる。終戦後の日本と映画界の様子。十代の彼女のはつらつとした笑顔が輝いていたデビュー作。その後の肉体派女優としてのダイナミックな演技。日本映画が海外の賞を獲るのは初であるカンヌで、演映画が作品賞を、自身が主演女優賞を受賞したこと。それが、敗戦がまだ色濃く影を落としていた日本をどれだけ勇気づけたか。さらなるスターへの道。結婚と離婚。それらがマンションの部屋に山と積まれた段ボールの中から、ご本人の口から、つぎつぎ出てくるのである!

また「加工」の問題もある。歳とともに芸能関係者はあちこちをつまんだりひっぱったり伸ばしたり消したりしがちだ。「六十代なのに三十代に見えるそのハリとツヤ!」というやつである。でも顔面の時間を止めるって、一時停止画像が続くみたいでどこかに無理がある。鈴さんはそのままで八十代になり、美しい。「若さを保とうとする」と「日々生気に満ちる」は違うのである!

一方一心はある娘さんに夢中になっていた。それは、「恋人を許さない勇気」とか「彼女の姿が胸を食い破って出てきそう」という言葉であらわされるような事態であった。癒してくれたのが、鈴さん。

いつしか彼は、気がつくと鈴さんのことを考えている。これは恋?というお話。

いや無理だろー、という声もありましょう。八十代女性と二十代男性、国民的スターとただの青年。でも大学院の同級生に「一心くん、恋人できたでしょ?」と勘ぐられたのはあの娘さんではなくこの「気がつけば鈴さん」の時期だった。

二人には共通点がいくつかあった。長崎出身であること、かけがえのない女性を亡くしていること。その相手が遺した言葉がとても似ていること。

一心は鈴さんとの時間から、人生にしみとおっていく大切なものを教わる。愛する人が「いなくなった」ではなく、いた人生を歩いているような感覚、自分の呼吸で仕事をすること。

今は「男が、女が、と言わないようにしましょう」「俳優と言いましょう」となってるけど、 「俳優・和楽京子」と、「女優・和楽京子」では、あきらかに違う。言えなくしてしまうことで、抜け落ちるものがたくさんある。

希望する人は、「私は女優」と言い続けることができる世の中であってほしいと思う。
和楽京子、鈴さんはいつでも「女性」、そして「女優」なのだ!と心底思える作品。「作者・吉田修一さんが頭の中でこしらえた人物」を超え、彼女はひとりの生きた人間として、私の前にいる。
 
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代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室  道 子
 
【プロフィール】
雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『婦人画報』、電子雑誌「旅色 TABIIRO」、朝日新聞デジタル「ほんやのほん」などに連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『タイニーストーリーズ』(山田詠美/文春文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫)などがある。
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