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【第196回】間室道子の本棚 『やりなおし世界文学』津村記久子/新潮社

「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
 
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『やりなおし世界文学』
津村記久子/新潮社
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タイトルどおりのエッセイ集で、読むべきは、本に対して心を開いているところ。私もたくさんのページをめくってきたけれど、知らず知らずのうちに「世界文学と言われているものにこんなことを思ってはいけないのではないか」と自主規制していた。そのことを津村さんの脳みそのブレーキはずしぶりから知らされ、おおいに反省した。

執筆のはじまりは「意味のわからないタイトルの小説の中身を確認する」だそうで、フィッツジェラルドの『華麗なるギャツビー』を前に、ものすごく素直に「ギャツビーって誰?」と考える。ジェイムズの『ねじの回転』を「家具を組み立てる話なのだろうか」と想像する。

感想もほとばしるままだ。ワイルドの『ドリアン・グレイの肖像』について、「ドリアン・グレイって誰やねん」からスタートし、「メモを見返すと、「頭からっぽやな」と十一回書いていた」と告白。再読したブラウンの『スポンサーからひと言』には、「相変わらず、うまい・アホ・ていねい」。チャンドラーの『長いお別れ』は、「本当に長い小説だった」。

「読みながら頭をよぎった人」も縦横無尽で、船越英一郎、和田アキ子、やしきたかじん、 トニオ・クレーゲルなどが登場。

これだけだと「名作について言いたい放題するエッセイ」と思われそうだが、ちがうの!津村さんがすごいのはここから!!

この自由なほとばしりを回収する作品の肝のようなものを、彼女はつかみだすのである。

たとえば前出の『ギャツビー』。「作品自体が、その「ギャツビーって誰?」ということを解き明かす過程になっている」とあり、章のラスト二行で津村さんは読み手の胸をつきさす。

『ドリアン・グレイ』については、「若さに執着している頭からっぽな人間を書くということに対して、作者ワイルドは本気だという衝撃が走る」。

『スポンサーから一言』は、「一見アホな設定を使って、トリッキーな技で鮮やかにどうこう、というのではなく、ほとんど這いずるような実直さで話を真相に近づけていく」

『長いお別れ』が長く感じ、ぜんぜん終わらないことについて、「作品の世界に浸っていたい人からしたら大きなアドバンテージであると言える」。

これ以上紹介すると全編ねたばれっぽくなってしまうのでここでやめるが、プーシキンの『スペードの女王』の評で挙げてあった、「(『不思議の国のアリス』の)ハートの女王が首をちょん切るのなら、スペードの女王は闇討ち」というイメージ、『マルタの鷹』に登場する探偵サム・スペードの「突っ切っていく」一点の魅力など、将棋で言うならびしっと決まった角打ち、スポーツでいうならウィニングショットの連発。とても美しいエッセイ集だと思う。

あと、まだ言うんかい!と突っ込まれそうだが、津村さんは高校から大学時代、『たったひとつの冴えたやりかた』『月は無慈悲な夜の女王』、『流れよわが涙、と警官は言った』など、「SFやで」と心をつかんでくるタイトルを好んで読んでいたそうで、本書の章のネーミングにその影響が出ていると思う。

「したり顔でおれらを踏み台にするおまえらが大嫌いだ」「船は誰にも従わない」「愛していると思うよだからどうだというんだ」「輝き続けるアホと世界の急所」など、シビれる!

どれも巨匠の一冊や有名作。「おお、この作品にこう来ますかあ」と『やりなおし世界文学』を手にとり、ニヤリとしてください。
 
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代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室  道 子
 
【プロフィール】
雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『婦人画報』、電子雑誌「旅色 TABIIRO」、朝日新聞デジタル「ほんやのほん」などに連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『タイニーストーリーズ』(山田詠美/文春文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫)などがある。
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