【第206回】間室道子の本棚 『異常 アノマリー』エルヴェ・ル・テリエ/加藤かおり訳 早川書房

「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
 
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『異常 アノマリー』
エルヴェ・ル・テリエ/加藤かおり訳 早川書房
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タイトルどおりの小説である。

まず殺し屋が登場し、そのあと批評家たちには評判がいいけど本が売れてるかと言うとそうではないフランスの作家とか、元恋人からの復縁メールにうんざりしてる女性、腫瘍ができた男、カエルを飼っているNYの少女、マイノリティの弁護士、その他大勢の人たちがどんどんでてくる。彼らには共通点があり、やがてみんなの元に訪問者が・・・。

よくもまあこんなことを考えたもんだ、という物語の核がすごい。問題解決のために、軍人、政治関係、科学の人たち、哲学者までが呼び出されるけど(なかの一人の「これってドッキリかなにかですか?」という発言が非常にリアル)、原因についての結論はでない。

というか、それはどうでもいいのだ。私の考えでは、状況はたとえるなら意外な人の望まぬ出産。いつからそういうことに?相手は誰なの?どこで会ってたの?を問い詰めているより、「生まれちゃって目の前にいるこの命、赤ん坊をどうしますかっ」が大問題であろう。

私がそうだったんだけど、日本人読者には情報公開の迅速さやカウンセラーの手配(日々すみやかにしかるべきところに報告をする任務も兼ねていると思われる)に「欧米だ!」という感想がわくだろう。どんなまさかの事態にもあらかじめ決められた手順の書があり、Q&Aが整備され、危機管理がなされてスポークスマンがいる。もし我が国でこれが起きたなら、なんにも決められず、政府は自治体にまかせ、自治体は医療機関とかそういうところ(!?)に丸投げし、とどのつまり「国民へのお願いレベル」でごにょごにょしちゃうと思うのである!

閑話休題、読み手が「どうやって収拾を?」と考えているうちはまだ平和。最後に読者全員が下アゴを20㎝落とす事態になるほんとうに「異常」なお話だ。読んだ人はねたばらし厳禁、未読の人はこれ以上の情報を入れぬまま読むことをおススメする、今年度の仰天小説ナンバーワン!
 
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代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室  道 子
 
【プロフィール】
雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『婦人画報』、朝日新聞デジタル「ほんやのほん」などに連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『蒼ざめた馬』(アガサ・クリスティー/ハヤカワクリスティー文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫)などがある。

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