【第214回】間室道子の本棚 『モノガタリは終わらない』モノガタリプロジェクト編/集英社

「元祖カリスマ書店員」として知られ、雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする、代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ・間室道子。
本連載では、当店きっての人気コンシェルジュである彼女の、頭の中にある"本棚"を覗きます。
本人のコメントと共にお楽しみください。
 
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『モノガタリは終わらない』
モノガタリプロジェクト編/集英社
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本書はメルカリのツイッターの企画で、21人の作家が書いた短編のアンソロジーである。

まずラインナップがすごい。尾崎世界観さん、絲山秋子さん、おお、筒井康隆先生。三浦しをんさんもいるし山田詠美さんもいる。金原ひとみさん、江國香織さん、平野啓一郎さん、吉田修一さん、恩田陸さん、いかん全員書いてしまいそうだ。文学に詳しい人ならよくまあこんな面々を、と口をあんぐりの豪華陣。太田光さんもいるよ!

下世話だが、私の考えでは原稿料がよいはず。「もの書きはお金で動きません!」と言われそうだけど、たとえば世界的コンピューター会社の「M」とか中国の巨大不動産会社の「C」とかが誰かに執筆を依頼するとき「えー、こんな額なの?」にはぜったいにならないはず。メルカリもです。ええ。

お題が「捨てない」「人から人へモノはめぐる」であるのもいいなと思う。書きがいがあるかんじ。

というわけで、お金に満足できてテーマにそそられる。こういう場合、作家はどうなるか。遊ぶのである!

商業案件なので、当然悲劇や暗い話、怪奇もの、残酷物語はNGな中、それぞれが趣向を凝らし嬉々として取り組んでいるのがうかがえる。本書がステージで、全員の出し物がハネているよう。

おススメは伊坂幸太郎さんの「いい人の手に渡れ!」。

主人公は中年にさしかかったぐらいの父親で、ネットに出品した革ジャンを夜中に梱包しているところを起きて来た小学一年生の息子に見つかる。わが子はこの服が好きで、「お父さん、出かける時はこれを着て」とよく言っていた。自身も大事にしてきた一品である。

「お金がないんだよ」と父は正直に話す。そして、明日のごはんに困るほどではないことと、自分は太ってきてこの革ジャンがきつくなってきた、今のうちにちゃんと着られる人にもらわれたほうがいい、ときちんと説明したあと、もう買ってもらえたんだよ、と付け加える。息子は泣きそうだ。そこでお父さんは・・・。

「メルカリからの依頼原稿ですよ」というのを作品内でいじりながら(魔導士メルクカリウス!)さわやかに仕上げているのはさすが!この家のお母さんについて情報をちょっと出しつつ、ぜんぶ書いてしまわないことで、深い感動が父と息子の物語に漂う。もう大好き。

名うての作家たちだからこれまた当たり前だが「よいものだから捨てません」「価値があるから次につなげます」という凡庸路線はなし。反則ギリギリの、ヘアピンカーブを攻めるような姿勢も読みどころだ。

たとえば、これは禁断のホラーではないかと読んでいて驚きつつ、最後に回収の一行がある綿矢りささんの「封印箪笥」もすごいし、捨てられない想いが読み手の胸に長く残る川上未映子さんの「初恋の」も濃厚かつ純度が高い。朝井リョウさんの、誰もがすぐ処分してしまうであろう不吉なものを男の子はなぜ持ち続けているのかを描いた「吉凶の行方」も素晴らしいし、いかん、また全部書きたくなってきた。藤崎彩織さんも書いてるよ!
 
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代官山 蔦屋書店 文学担当コンシェルジュ
間 室  道 子
 
【プロフィール】
雑誌やTVなどさまざまなメディアで本をおススメする「元祖カリスマ書店員」。雑誌『婦人画報』、朝日新聞デジタル「ほんやのほん」などに連載を持つ。書評家としても活動中で、文庫解説に『蒼ざめた馬』(アガサ・クリスティー/ハヤカワクリスティー文庫)、『母性』(湊かなえ/新潮文庫)、『蛇行する月』(桜木紫乃/双葉文庫)、『スタフ staph』(道尾秀介/文春文庫)などがある。

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